「活動記録」カテゴリーアーカイブ

江戸川区子ども未来館での活動(3)

大井みさほ会員が、8月13日の午後に、江戸川区子ども未来館子どもアカデミー夏休みプログラムの一つとして「光の進み方」というテーマで、小学校児童3年生から6年生 12名に実験授業を行いました。

初めにレーザーの原理についてのイラスト資料を配り、かなり詳しく説明をしました。 レーザーという言葉はよく聞く言葉になっていますが、 light amplification of stimulated emission of radiation(誘導放出による光増幅放射)という言葉の頭文字をとったLASERを発音しているのだと、すぐに言える人は少ないのではないでしょうか。 レーザーとは、もともとは単色性にすぐれ、干渉性のよい電磁波を発振する原理あるいはそれを利用した装置を指す言葉で、そこから発生するのがレーザー光です。
レーザーは、大型の工作機械から医療機器など、様々な分野で使われていますが、身近なものはレーザーポインターではないでしょうか。

そこで、緑と赤のレーザーポインターを使って、大気中、水中およびプラスチック角棒と光ファイバー中での光の進み方を観察しました。さらに水と空気の境界での屈折、反射を観察しました。このあたりの様子はすでに、活動報告に書いていますので、そちらをご覧ください。

光ファイバーを使って、光通信の原理を実験で確かめました。また、持参したキャラメルの空き箱などと、回折格子片を使って、分光計を製作し、蛍光灯の光などの観察をしました。空き箱利用で工作時間が昨年より大幅に短縮でき、その分、観察時間を増やことができました。

今回の実験授業には、東村山市教育委員会委員の方と小学校校長先生が見学されました。今後予定している、東村山市での活動につながるものだと思います。

江戸川区子ども未来館での活動(2)

和田勝会員が、8月12日の午後に、江戸川区子ども未来館子どもアカデミー夏休みプログラムの一つとして「生き物は細胞でできている」というテーマで、小学校児童4年生から6年生 16名に実験授業を行いました。 2時間では時間が足りずにあわただしいので、今年も午後1時から4時まで、3時間の枠を取ってもらいました。

受講者が実際に手を動かす時間を長くとるよう、今回は説明をなるべく少なくしました。ざっと顕微鏡の操作法を説明し、単細胞生物のゾウリムシの観察を行ってもらいました。サイズが比較的大きいので、低倍で観察でき、動き回るので興味を引くからです。どのように動くか、よく観察するよう促しました。
次のYouTubeのURLをクリックしてみてください。投稿された興味深い動画を別画面で見ることができます。
https://youtu.be/dpQ8ZqXCEkw

単細胞生物と多細胞生物の説明をして、多細胞生物の植物の例として、タマネギ鱗茎葉の表皮細胞を染色せずに観察しました。それぞれ、自分でカッターナイフを使って、一片の鱗茎葉の内側の表皮に切り込みを入れて、ピンセットでなるべく薄く剥ぎ取ります。

次いで酢酸カーミンで染色して観察しました。染色により1つ1つの細胞に核がきれいに見えます。

次にミニトマト果実の表皮細胞を観察しました。タマネギの場合と比べて、細胞の形、大きさ、色、配列の仕方の違いを考えるように促しました。植物細胞には、細胞壁があるという話も少ししました。

タマネギに戻って、鱗茎葉の表と裏、あるいは場所によって違いもあるかどうか、観察してみたらと言いましたが、食いついた人はいませんでした、残念。

動物細胞の例として。自分の頬の内側の表皮細胞を綿棒でこすり取り、染色して観察しました。今回はすべての人がうまく観察することができました。

ここで植物細胞と動物細胞の違いを説明しました。 最後にネギの根端組織の細胞を観察してもらったのですが、あまりうまくいきませんでした。そこで、細胞分裂の動画を見てもらい、多細胞生物は細胞分裂により細胞の数を増やして成長するんだよと、強調しました。

今回は、スライドをあまり使わずに、白板に字を書いて説明するようにしました。また、手際よく進められたので、時間内に予定した項目を終えることができました。回収された発見カードを見ると、わかった度もわくわく度も、「とっても!」が多かったので「よかった!」と思いましした。

江戸川区子ども未来館での活動(1)

新型コロナの影響で、今年に入って1月の活動の後、予定していたいくつかの活動がキャンセルになりました。8月に入って少しずつ自粛が緩和され、今年度の第1回目の活動が行われました。

先陣を切ったのは小林憲正会員で、8月8日の午後に、江戸川区子ども未来館子どもアカデミー夏休みプログラムの一つとして、「宇宙人は左きき?右きき?」という魅力的なテーマで、小学校児童16名に実験授業が行われました。

前半は、パワーポイントのスライドを使って宇宙生物学(Astrobiology)の大きなテーマについてのお話です。宇宙生物学の3つの大きなテーマは、
 1)私たち(地球人)はどのようにしてできたの?
 2)地球以外にも生物はいるの?
 3)わたしたちは、この先、どうなるの?
です。
1)のお話で、生命と非生命の違いとは?という問いかけから始まります。 生物とは生命を有するものですが、そもそも生命とは何でしょうか。 下の写真を見てください。地球上の生物の写真が並んでいます。

次の写真は石ころです。いろいろな色や形がありますが、生物ではないのはすぐにわかりますよね。

https://bulan.co/swings/stone-cushion/より

石ころの次の写真は、二足歩行のロボット「ロビ2」 の写真です( https://prtimes.jp/ より )。人間に近い形をしていて、コミュニケーションもできるようですが、生物ではないですよね。

生命とはなにかと定義するのは、なかなか難しいのですが、ここでは、細胞でできている、ものを取り込んで変化させる(すなわち代謝をする)、子孫を残す(すなわち繁殖する)ものであると定義をしておきましょう。

上の写真にあるような、地球上のいろいろな生物はどのように誕生したのでしょうか。ダーウィンの進化論、ミラーによる放電の実験、オパーリンによるコアセルベートの実験などを示して、地球生命がどのように誕生し、進化してきたのかを説明しました。

それでは、地球以外に生命が存在するでしょうか。質問を投げかけました。「いる」と答えた人が何人かいました。実際はどうでしょう。 今のところ、太陽系の惑星の中に生命の存在の証拠は見つかっていないが、 次のように考えられています。「もっとも生命存在の可能性が高いとされる火星においては、1975年から1976年にかけて行われたバイキング計画において生命探査が行われたが、生命の痕跡を検出することはできなかった。しかし、その後も火星生命の探索は行われている。このほか、地下に海の存在する可能性の高い木星衛星エウロパ土星の衛星エンケラドゥス、液体メタンエタンによる海が存在する土星の衛星タイタンなども生命の存在する可能性があると考えられている。Wikipedia「生命」より」

木星の衛星エンケラドゥス(Wikipediaより)

給水タイムのを取った後の後半は、地球生物の形態や構成する物質の対称性について、実際に手を動かして学びました。まず、前の方のスライドで、ものを取り込んで変化させるという項目に矢印で「タンパク質を使う」とあったことを思い出しましょう。タンパク質は20種類のアミノ酸からなっていますが、地球生物が使っているアミノ酸は、非対称な物質なのです。タンパク質を構成しているアミノ酸は20種類ありますが、 グリシンを除いていずれもL型なのです。下の図で、Rは側鎖を示し、例えばCH3ならアラニンになります。このことも、地球上の生物は共通の祖先から進化した証拠の一つとされています。

非対称性物質の例として、コガネムシと円偏光版を各テーブルに配り、コガネムシの羽根(液晶) を左と右円偏光板を通して観察すると、どのように違って見えるかを体験してもらいました。不思議なことに、左偏光板を通した場合には、コガネムシの翅の金属光沢の緑色はちゃんと見えるのに、右偏光板を通してみると黒く見えるのです。

これは、コガネムシの翅の表面を覆うキチン質の構造が、左円偏光を生じるようなものであることを示しています。このあたりの詳しいことは、ここここを参照してください。

L型分子とD型分子の違いを実感してもらうために、黒い球に赤、青、緑、白の4つの球を均等につけた場合、2種類のものができること(あるいはそれしかできないこと) を分子模型で試してもらいました。1つは全く同じもの、もう1つは鏡像異性体(下の写真)になります。

以上のような観察・体験から、地球外生命のさまざまな可能性について考えてもらいました。

船橋市ちゅうおう生活学校での活動

上ノ山 周会員が、12月20日の午後に船橋市中央公民館で開催された船橋市ちゅうおう生活学校で「私たちを取り巻く環境問題 マイクロプラスチック汚染について」というタイトルで講演を行いました。聴講したのは、船橋市生活学校運動推進協議会事務局長・会長代行の大西智子氏をはじめとする同校の学生およそ35名でした。

上ノ山周横浜国立大学教授

講義は、1)プラスチックとは何か?2)その性質、開発の歴史的経緯、3)2つの重合形式(付加重合と縮重合)、4)種類(ビッグ6等)、5)処理問題、3つのリサイクル手法等について、順を追って平易に解説しました。

1)プラスチックとは何か?
プラスチックという言葉はだれでも知っています。英語のplasticからきたこの語は、可塑性を意味し、必ずしも合成樹脂を意味するものではありませんでしたが、日本語として定着して、プラスチックというと、レジ袋や包装用の透明容器、トレーなど、さまざまな合成樹脂の製品を指す用語として使われています。

一般家庭で使われるプラスチック製品例(英語版Wikipediaより)

2)その性質、開発の歴史的経緯
天然の樹脂である天然ゴムやアスファルトに代わるものとして、初めて工業製品としてつくられた合成樹脂がフェノール樹脂(ベークライト)でした。名前が示すように、フェノール(石炭酸)とホルムアルデヒドを重合して作られました。耐熱性と絶縁性に優れているので、自動車部品や電気製品によく使われています。子供のころには、ベークライト製品があふれていました。今は懐かしい黒電話がそうですし、スタート35というカメラの筐体がそうでした。

一光社のスタート35

フェノールのようにもとになる分子をモノマーと呼び、重合してできたものをポリマーと呼びます。ベークライトに続いて、このモノマーとして使う分子がさまざまに工夫され、それぞれ性質(特性)の異なるプラスチックが開発されました。
エチレンをモノマーとするポリエチレン(PE)、プロピレンをモノマーとするポリプロピレン(PP)、塩化ビニルをモノマーとするポリ塩化ビニル(PVC)、テレフタル酸とエチレングリコールをモノマーとするポリエチレンテレフタレート(PET)など、枚挙にいとまがありません。
プラスチック類は、金属のように錆びたり腐食せず、また軽い、形成が容易であるなどの特徴のほかに、耐熱性、絶縁性に優れているなどの長所がたくさんあるので、特性を生かした多くの製品がつくられています。多くのモノマーは石油を蒸留したナフサから得られるので、石油化学工業は大いに発展することになります。

3)2つの重合形式(付加重合と縮重合)
プラスチックは、分子量の小さなモノマーを触媒により重合させて、高分子のポリマーにしたものです。重合の仕方には主に二つあります。
付加重合というのは、二重結合を持つモノマーが、二重結合が開いて隣の分子同士が結合を繰り返していく反応です。次の図はエチレン2分子が付加重合する反応で、これが繰り返されて長いポリマー、ポリエチレンになります。枝分かれ構造を作るようにすることもできます。

一方の縮重合(縮合重合)は、2つの分子の一部(官能基)が別の分子(例えば水)となって外れ、その結果、結合ができるような反応です。下の図はテレフタル酸とエチレングリコールが脱水縮合によって結合して鎖状に長いポリマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)を形成する例です。それぞれの分子の両端に官能基があるので、両側に伸びていくことができるのです。PETは合成繊維として使われるとともに、ペットボトルに利用されています。ペットボトルの名前はPETからきています。

最初に述べたフェノール樹脂(ベークライト)は、フェノールとホルムアルデヒドが付加重合した後に、これが別のフェノールと縮重合したものです。このように付加と縮合が同時に起こる重合を付加縮合と呼んでいます。重合度が小さいもの(レゾールと呼ぶ)に熱をかける熱硬化反応により、分子量の大きなフェノール樹脂を作っています。

https://shibayama.issp.u-tokyo.ac.jp/one_point/files/bakelite.htmlより

4)種類(ビッグ6等)
2)で述べたようにプラスチックには多くの長所があります。欠点としては熱に弱い、傷がつきやすいことなどがあげられますが、最大の欠点は自然環境下では分解されないことです。
私たちの身の回りのプラスチックのうち、33%は包装材として使われていて、家庭ごみとして廃棄され、30%は建材として使われ不要になると産業廃棄物として排出されます。環境省のPlasticsSmartの資料によりますと、1950年以降に世界中で生産されたプラスチックは83億トンを超え、63億トンがごみとして廃棄されている、回収されたプラスチックごみの79%が埋め立てあるいは海洋に投棄されていて、リサイクルされているプラスチックは9%に過ぎないと書かれています。

排出されたごみは埋め立てられていましたが、現在では埋め立てによる処理は限界となり、リサイクルすることが課題となっています。リサイクルの際に、プラスチックの種類ごとに別々にリサイクルする必要があるために、アメリカでは1988年にプラスチック産業会が6つのプラスチックに番号を付けてリサイクルの矢印マークと組み合わせた樹脂識別コード(RIC)を制定しました(下の図)。


九州大学大学院工学府先導物質化学研究所高原研究室講義資料より

しかしながら日本では、資源の有効な利用の促進に関する法律(略称、リサイクル法、2001年4月施行)で表示が定められているのはPET(図柄は3つの矢印と1)のみで、その他のプラスチックは一括して四角い2本の矢印とプラの表示のみです。
次に述べるリサイクル手法をさらに有効に行うために、消費者として身近にあるプラスチックがどのような種類であるかを認識して、将来、さらに細かい分別収集ができるように準備をしておくのがよいのではないかと思います。

5)処理問題、3つのリサイクル手法
便利なプラスチックですが、自然環境下では分解されないために、適切にリサイクルする必要があります。リサイクルの方法には主に3つの手法があります。リサイクルされる割合の多い順に、サーマルリサイクル、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルとなります。
(1)
サーマルリサイクルは、文字通り熱源として使う方法で、焼却時の熱で発電をしたりします。現在、一般廃棄物を燃やす焼却施設は全国に2000か所以上ありますが、燃やす時の熱や蒸気を近くの健康施設や老人施設に送り、暖房や浴場の温水、また温水プールに利用しています。
(2)
マテリアルリサイクルは、回収したプラスチック製品をもう一度、新しい製品にする方法です。そのためには、ペットボトルならペットボトルだけに分別する必要があります。ラベルを外してきれいに洗ったペットボトルを、圧縮して保管します。これを処理業者が粉砕、風力分離、洗浄、比重分離を行い、8㎜程度のフレーク状にします。このフレークを利用して再度ペットボトルとして利用したり、食品用トレイやレベルなど、幅広く再利用されます。フレークはさらに熱処理によって細かいペレットにして、衣類やその他の容器などに再利用されます。
(3)
ケミカルリサイクルは、回収したプラスチック製品を化学反応により組成変換をした後にリサイクルする方法です。上で述べたように、プラスチックは主に炭素と水素から成るので、熱処理によって可燃性ガスを得たり、油状燃料を得たりします。また溶鉱炉において鉄鉱石を還元して鉄を取り出す際の炭素源として使うのも、ケミカルリサイクルです。

     http://www.pwmi.jp/tosyokan2/20_3recycle.htmlより。2009年実績

いずれにしても、環境への負荷を減らすためには、3つのR、Reduce、Reuse、Recycleを心がけることが大切です。リサイクルは3Rの最後で、その前に使用を減らし、再利用に心がけたいものです。

リサイクル手法の開発と並行して、グリーンプラスチックと呼ばれる生分解性プラスチックの開発・利用も重要になるでしょう。天然物であるセルロースやキトサンを使ったもの、乳酸を重合させたポリ乳酸を使ったものなど、製品化されていますが、ポリ乳酸は高温(50~60°C)のコンポスト施設でなければ分解されないという問題点があります。
最近になってKANEKAが、細菌が少ない常温の海水中でも分解される新しい海水中生分解性プラスチックの開発と生産の工業化に成功しました。PHBH®です。PHBH®はポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の一種で、3-ヒドロキシ酪酸 (3HB) と3-ヒドロキシヘキサン酸 (3HHx) の共重合ポリエステルであるPoly(3-hydroxybutyrate-co-3-hydroxyhexanoate) (PHBHHx) の商標名です。

有川尚志氏主論文要約ページより https://nagoya.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=25302&item_no=1&page_id=28&block_id=27

KANEKAは自社の高砂工業所の土の中から、偶然にPHBHを作り出す微生物Cupriavidus necatorを発見します。この細菌は、植物由来の油を分解して生じた脂肪酸から、β酸化経路で最終的に2つのモノマーCoAを産生し、別の酵素が2つのモノマーCoAを次々とつなぎ合わせてPHBHを産生し、自らのエネルギー源として貯蔵しています。
ただし、最初に見つかった細菌は産生するPHBHの量が少なかったので、遺伝子導入などの技術を使い産生量を高めました。そうして発酵や高分子技術を駆使してプラント建設に成功します。

SHIMADZUブーメランhttps://www.shimadzu.co.jp/boomerang/40/04.htmlより

こうして作られた製品サンプルのうち、スプーン、フォーク、ナイフを回覧して、見てもらいました。普通のプラスチックと変わりありませんね。これらの製品は、23℃の普通の海水中に88日間漬けておくだけで、かなりの程度、分解され、最終的には二酸化炭素と水になります。PHBHのストローは、すでにコンビニのカフェで採用されています。

https://sciencewindow.jst.go.jp/articles/2019/0822.htmlより

さらに、比重が1に対して大であるか、小であるかで、大まかにプラスチックが分別できることを演示実験しました。
ボウルに水を張り、ポリ塩化ビニルを入れると沈みますが、ポリオレフィン(ペットボトルの蓋、ポリエチレンやポリプロピレン)は浮きます。ポリ塩化ビニルは1.35から1.45、ポリエチレンは0.91から0.92、ポリプロピレンは0.90から0.91です。ちなみにペットボトルの本体であるPETは、比重が1.34から1.39なので沈みます。
ポリスチレンのスプーンは 、真水に沈みますが、食塩を溶かしていくと浮いてきます。ポリスチレンの比重は1.04から1.09なのです。プラスチックの比重一覧はここをご覧ください。

プラスチックは、当初は電気の絶縁体として開発されましたが、 白川英樹先生が、導電性ポリマーを開発された話もしました。導電性ポリマーとして開発されたのは、ポリアセチレンの薄膜でした。ポリアセチレンは、ポリエチレンのC-C結合が一つ置きに二重結合になった構造をしています。この二重結合の電子が、ヨウ素のような電子受容体を不純物として混ぜると、動けるようになり、電子の流れ、すなわち電流となるのでした。

白川秀樹先生は、この発見によって2000年にノーベル化学賞を受賞しています。ちなみに、2019年度のノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏のリチウムイオン電池は、この導電性アセチレンがヒントとなり、これを改良することで、現在のようなリチウムイオン電池の開発につながりました。

さて、プラスチックについていろいろと述べてきましたが、現在、最も大きな問題となっているのは、マイクロプラスチックによる海洋汚染です。マイクロプラスチックというのは、5mm(1mmという意見もある)以下の細かいプラスチックの微粒子を指し、生分解性ではないプラスチックが海洋投棄をされたり、めぐりめぐって海に入りこんだりして、波の力と太陽光、特に紫外線によって形成されたものと、研磨剤などとしてもともと微粒子として生産されたものがあります。
マイクロプラスチックは、北極海でも見つかっており、考えているよりも広く汚染されている恐れがあります。
マイクロプラスチックが生物に与える影響については様々な議論がありますが、摂食されて物理的に影響,傷害や閉塞、を与えたり、マイクロプラスチック表面に吸着された有害な化学物質が悪さをすることが考えられます。さらなる研究と先を見越した対策が必要になるでしょう。役に立ちそうな記事がここにあります。

https://www.nceas.ucsb.edu/news/scientists-say-microplastics-are-macro-problemより

世界中でその解決が喫緊の課題となっている「プラスチックによる環境汚染問題」を、自分のこととして意識してもらう切っ掛けになったとすれば幸いです。

八王子市中学校科学コンクール研究発表会での活動

大井みさほ、奥田治之、和田勝の各会員が、八王子市にある東京工業高等専門学校で12月7日に開催された八王子市中学校科学コンクール研究発表会に参加しました。

今年で11回目になる八王子市教育委員会・八王子市立中学校PTA連合会主催の八王子市中学校科学コンクールでは、各中学校から164題の作品が提出されました。そのなかから先生たちによって40題が選ばれ、さらにそこから10題が選ばれ、最優秀賞、優秀賞が選出され、残りの8題がポスタープレゼンテーションとなりました。残りの30題の作品は、閲覧できるように会場に展示されていました。

去年の反省から共催・協賛賞の選考委員は、まとまって順番にポスターをめぐり、じっくりと演者の行うポスター発表を聞いて質疑応答を行うことができました。欠席があったので7題となったすべてのポスター発表を聞いた後、別室に移って協議して、各賞受賞者を決定しました。協賛団体であるSSISSも、2題を選出しました。

発表会場に移動した後、最優秀賞・優秀賞のスライドを使った口頭発表を聞きました。その後、授賞式が行われ、最優秀賞には賞状のほかトロフィーと盾、副賞が、優秀賞には盾と副賞が贈呈されました。SSISS賞の2題に対しては、大井理事長が賞状と副賞を授与しました。

授賞式開会のご挨拶
豪華な副賞は、協賛のオリンパスから。右端がSSISS賞の副賞
受賞した生徒たちと授与した人たちの記念撮影

市川学園市川高等学校での活動

町田武夫会員が、11月25日から27日および29日の計4日間、午後の時間帯に市川学園市川高等学校で開かれた「理科研究課題中間発表会」に参加して、指導助言を行いました。これはこれまでもたびたび報告している同高校が行っているSSH理科課題研究の2学期の終了時点での口頭発表会です。参加したのは課題研究選択者の高校2年生145名でした。

物理、化学、生物、地学、数学、情報分野にわたる合計160件の研究発表が、4会場で同時進行で行われましたが、生物分野は課題数が57件と特に多く、内容も多岐にわたるため、学内の教員および運営指導委員だけでは対応が不十分となるために、要請を受けて町田会員が加わりました。

7月の発表会での指摘・助言に基づいてどのように実験が展開されたのか質疑応答を行い、さらにアドバイスなどを行いました。 実験そのものへのアドバイスや、必要な文献の紹介を行うとともに、関連分野の専門家へ連絡を取ったりして、おおむね指導助言の役割を果たせました。

発表会の休憩時間および終了後の時間に、担当教員および理事長と、課題研究実施の問題点ならびに今後の進め方等について意見を交換しました。遅くとも7月の第1回発表会の段階で、実験計画の具体的な内容に踏み込んだ指導助言をみっちりと行い、その後、研究の進行に伴って生ずるさまざまな疑問点などに対して、随時相談に乗るという体制ができるのが最善ではないかという点に落ち着きました。

高尾山学園での活動

奥田治之会員が、11月5日の夕方から高尾山学園で、「月の鑑賞会 -お盆のような月、鏡のような月」というタイトルで、文字通りの月の鑑賞会と月にまつわるお話をスライドを使っておこないました。有山正孝会員もお手伝いで参加しました。受講したのは同学園の生徒20名、その保護者5名、同学園の教職員13名でした。

この日は満月ではなく月齢8.0でしたが、後で書くように月はきれいに見えました。夕方、会を始めた時は雲が出ていたので、最初にスライドを使って月についてお話をすることになりました。タイトルは上に書いたように「お盆のような月、鏡のような月」です。たしかに月というと、すぐに「♪出た、出た月が、まあるいまあるいまんまるい、盆のような月が」の歌が思い起こされます。副題に、「不思議いっぱいなお月さま」とあります。いつも見慣れていて、当たり前と思っている月に、どんな不思議があるのでしょうか。さあ、始まりです。

最初のスライドに映し出されたのは、東の空に昇った月。大きくて少し赤っぽく見えます。

月の見かけの大きさ(角直径)は約0.5度で、実はこれは太陽の見かけの大きさと同じです。月が上空に来た時は上の写真よりも小さく見えますが、大きさが変わるわけではありません。5円玉あるいは50円玉を持って腕を伸ばし、穴を通して月を見てください。ちょうど穴にすっぽりおさまる大きさです。上った直後の月も上空の月も、同じように穴にぴったり収まるので、大きさが変化したわけではないことが分かります。月は地球に最も近い天体で、地球の直径の約30倍、距離にして38万km離れた位置にあります。上の数値から月の大きさ(直径)が計算できますね。

Wikipedia 「月」より

どうして地平線に近い月は大きく見えるのか、実はまだよくわかっていないそうです。有力な説は、これは錯視の一種で、地平線に近い方が比較する地上のものがあるからだといわれています(日本心理学会のページより)。上に書いたように太陽も見かけの視度はほぼ同じなので、5円玉の穴に収まりますが、太陽をそのように見ないでくださいね、眼を痛めますから。

月は太陽と並んで、誰もがふだんから目にする、最もなじみ深い天体です。昔は夜道の明かりとして利用されましたし、暦(太陰暦)として生活に密着したものでした。月の満ち欠けは、潮の満ち干と関係があり、そのため、特に海産生物の生活リズムと深い関係があります。たとえば、身近なところではクサフグやアカテガニの産卵行動、あるいはウミガメやサンゴの産卵行動と関連しています。サンゴの放卵が一斉に起こるのをテレビで見たことがある人もいるでしょう。いずれも大潮のときに起こります。そのため漁師は昔から月の満ち欠けで出漁を判断していました。

上で触れた「お月様」以外にも、「月の砂漠」や「朧月夜」などの童謡に歌われ、「荒城の月」や「Moon River」など月がタイトルに入った名曲がいっぱいあります。和歌や俳句にもうたわれていますよね、それだけ身近なのです。そうそう、日本にはお団子とススキを供えて中秋の名月をめでるお月見があります。最近はあまり見かけなくなった気がしますが。

上のお月見のイラストでは、月の中でウサギが餅つきをしています。日本では昔から、冒頭の写真に見える月の表面の黒い部分を、ウサギが餅つきをしていると見立てていますが(でも2頭はいませんね)、カニに見立てたり、女性の横顔に見立てる国・地域もあるようです。この黒い部分は「海」とよばれていますが、実際に水をたたえた海があるわけではありません。

月は太陽のように自分で光っているわけではありません。太陽の光を反射しているのです。反射した光が地球に到達して白く見え、反射が少ない部分は黒く見えているのです。

盆のように丸く、鏡のように輝く月、でも月は球体で平面ではありません。もしも鏡のように反射するのなら、次の宇宙船から見た地球に太陽が当たっている写真のように、狭い範囲が光っているだけなはずです。

月に当てはめれば、次のイラストのように、太陽の位置によって光る位置が変わるけれど、一点だけが光るはずです。

月は球体なのに、盆のように丸いと形容されます。たしかに上の地球の写真は球体のように感じるけれど、次の写真(この写真は2018年1月22日に筆者が撮影したスーパームーン)では、縁もはっきりと見えて平べったい感じがしますね。

これは次のイラストのように考えると納得がいきます。

これらの二つの謎を解くカギは、月の表面を覆っているのが、大きさミクロンサイズの細かい砂粒である点にあります。月の表面というと、クレーターがあるのでゴツゴツした地形のように思ってしまいますが、実は月の表面は20~30m、海の部分で2~8mの厚さで細かい砂粒で覆われているのです。これは宇宙から高速で降り注いだ隕石が、大気がないので燃え尽きずに降り注いで砕け散り、溜まったものです(地球上では燃え尽きて流れ星になります)。高速で衝突して溶けて再び固まるので、ガラス質も含んでいます。1969年7月に、アポロ計画で月に降り立った宇宙飛行士の足跡を見ると、砂粒の様子がよく分かります。この砂粒が、光を全方向に反射するために、どこも一様に光って見えるのです。

足跡の拡大 Wikipediaレゴリスより

ちょっと脱線。上の足跡の写真ですが、宇宙飛行士と一緒に左下に移っている足跡はへこんで見えますが、下の拡大した写真は足跡が盛り上がっているように見えませんか?これは錯視の一種です。画面を180度回転させてみてください。パソコンだとできないかも、その場合は頭を180度回転させて画面を見てください。今度はへこんでいるように見えますよね。これは、光は上の方からくるという前提で脳が解釈しているためです。

月の表面には、大中小と大きさの異なる多数のクレーターがあります。これは38から46憶年前に起こった隕石の衝突で生まれたものです。地球上にも同じような隕石衝突跡があったのですが、空気や水があるために、その浸食作用で消失しました。残っているもので有名なものはアメリカのアリゾナにあります。月のクレーターは小型の望遠鏡で簡単にみることができます。後で観察できますからお楽しみに。

ところで月の表面を観察していると、いつも同じ面しか見えていないことに気が付きます。月は、その裏側を見せてくれないのです。これは月の自転周期(27.32日)が地球の周りをまわる公転周期と一致しているからです。最初にソ連、次にアメリカの探査機が月の裏側を撮影することに成功しました。アメリカの撮影した裏側の写真を、表側のものと比べてみましょう。

左上が表側、右上はアメリカ・クレメンタインが撮影した裏側
下の写真は高さを色で表示、緑色が0、黄色から赤になるほど高く、青が濃くなるほど低いことを示す。上はWikipedia、下は日本科学未来館

このように月の表面の高さは表と裏でだいぶ異なり、表側は高低差が少なく、裏側は高低差が大きいことが分かります。地殻の厚さに表側と裏側で差があるためだと考えられています。

イラストの中に書かれているように、表側の方が地殻が薄いために、隕石が衝突した後、マグマが下からあふれてクレーターを覆い隠して黒い部分、つまり海ができたと考えられています。どうして表と裏で厚さが異なるのか、月の誕生と関係しているようですが、よくわかっていないようです。

月はいつでも満月ではないですよね。下の図の左上の新月から満月へ、また新月へと光る部分の大きさを変えていきます。月齢と言います。

Wikipediaより

この月の満ち欠けは、月が地球の周りを周回しているため、光を照射する太陽と、光を受ける月と、観察する地球の間の相対的な位置関係が刻々と変わっていくためにために生じます。図示すれば次のようになります。外側に描かれた月は、地球からの見え方を示しています。


見え方の変化の詳しい説明はこのページにあります。

自作の模型を使って、月の満ち欠けの様子を実感してみましょう。下の写真が、講義で使った模型です。三体模型ではないので観察者が模型の周りを回ると、月の満ち欠けを再現することができます。写真に写っているように模型の手前から見ると下弦の月、模型の右側に回って見ると新月、向こう側からみると上弦の月、左側から見ると満月になります。実際には、月が地球の周りを回っているので、その様子を示した動画を載せておきます。

裏話を少し。この模型は、研究所に転がっていた廃材を使って組み立てたものですが、月が全体的に光る様子を再現するのに苦労しました。右は金属球を月に見立てたものですが、これだと、上の方で述べた地球と同じで、一点が光ってしまい盆のような月にはならないのです。一方、左の方は発泡スチロールの球を使いました。これだと、発泡スチロールの表面の細かい粗面が、細かい砂粒と同じように働いて、全体的に反射するという状況をよく再現して、盆のような月になります。

ここで少し脱線。満月は実は真ん丸ではない?!
実は、本当の満月を見ることはできないのです。その理由は次のイラストにあるように、月の公転周期面が地球の公転周期面とおよそ5度の角度で傾いているためです。

イラストにあるように、満月の時ほんのわずかですが地球から見て上にあるので、太陽からの光がずれるためです。本当に真ん丸に見えるのは、太陽・地球・月が一直線に並んだ皆既月食の時です。でもその時は月食ですから太陽の光は地球にさえぎられて光っていないはずですよね。でも実際は、日食の場合と違って、皆既月食の時の月は赤く見えるのです。

地球が太陽の光をさえぎってしまう皆既月食、でも赤く見える。その理由は、次のイラストにあるように、赤い波長の光は地球を回りこんで月を照らすからなのです。

月は大昔から知られていて、長年にいわたって調べつくされてきました。それでも、よく見たり考えたりすると、まだまだ不思議なことが見つかって、興味のつきない天体です。身近に観察できる月を眺めて、その美しさをめでるとともに、新しい発見を楽しんでください。

ちょうど話が終わったときに、雲が切れて月がきれいに見えると分かりました。みんな勇んで2台の天体望遠鏡が設置されている校庭に向かいました。

望遠鏡で眺めると、クレーターがはっきりと観察でき、みんな感激!聞いたばかりの話をかみしめながら、月を眺めていました。せっかくなので、月から望遠鏡をちょっとずらして土星も観察。土星の輪がはっきりと見えて、こちらも感激。実際に「見る」ことの大切さがよくわかりました。

最後に余計なことを。備品の天体望遠鏡は管理が悪いためか、事前にチェックした時は正常な動作をせず、ちょっと修理をしました。それでも当日、操作に苦労しました。理科教材のメインテナンスにかかる人員が十分ではなく、せっかくの備品が箪笥の肥やしになってしまっているのではと危惧します。

東京ガス四谷クラブでの活動

和田勝会員が、10月5日に東京ガス四谷クラブで「石川太郎先生に習ったことなどーその後の遺伝にまつわる話、遺伝子DNAへ」というタイトルで講演をしました。

以下は講演者のつぶやきです。

石川太郎先生というのは高校の時の生物の先生で、3年生の時に生物学を習いました。高校に入ったときは、中学校の時に古本屋で買って読んだ、ガモフ全集の中の「1,2,3、、、無限大」や「不思議の国のトムキンス」が面白かったので、物理学をやりたいと漠然と思っていました。でも、2年生の時の物理についていけず、3年生で習った生物の方を面白いと思いました。今でも黒板に先生が描いたパネットの方形を使って、メンデルの法則の説明を受けたのを覚えています。

というわけで、このことを枕に、高校のミニ同期会で、上のような講演をしました。理系の人ばかりではないので、なるべく難しくないようにと考えて、ヨーロッパのロイヤルファミリーの血友病からロシア革命のときに命を落としてロマノフ王朝最後のニコライ2世一家の話、そこから血友病の遺伝と、伴性遺伝、さらに第8因子のタンパク質の欠陥の話などをしました。ちょっと盛沢山にしすぎて、がん化の遺伝的背景や老化と遺伝子の関係にも触れました。

後で感想を聞くと、チンプンカンプンだったとか、難しかったという意見が多くてショックでした。 後でメールでもらった感想の中に、「タンパク質は身体を構成する重要な物質程度しか理解していなかったので、アミノ酸の並び方によって違っていることは初めて知りました。 」というのがありました。

そこで思い至りました。こちらは当然のこととして、タンパク質というのは集合名詞で、その中に多種多様な種類の個々のタンパク質があり、それぞれはアミノ酸の配列が違い、それぞれに名前のついている、というように考えているけれど、すべての人が必ずしもそうではないのだということです。

それで思い出したことは、昔、大学1、2年生に生物学の講義をしていた時に、ステロイドホルモンとテストステロンを同列に考えて混乱したという感想を聞いたことでした。集合名詞と個々のものに名付けられた名詞という階層構造がぴんと来なかったようです。

これって、野菜という名詞とキャベツやキュウリという名詞の違いを分かっていれば、当然のことのように思えるけれど、必ずしもそのように普遍化できないようです。

これからは、上記のことを踏まえて、より分かりやすく科学知識、リテラシーの普及に努めなけらばと反省したのでした。

東京雑学大学での活動

大井みさほ会員が、10月3日の午後に、東京雑学大学で「 生活と物理・新しい単位の定義 」というタイトルで、身の回りには物理に関係するものがいろいろとあることを、小中学生の自由研究のテーマを例として示しながら、お話しました。

特に人体にかかわりのある物理として、ヒトの姿勢、体重、重心、運動量などを考えるには、力学が大切なことをお話しました。

また新しい単位の定義として、本年5月からプランク定数の数値が不変のものとされ、キログラムはキログラム原器による定義から、プランク定数を使った定義に変ったことを紹介しました。

今回の内容は、2019年11月18日に小金井雑学大学で行ったものとほぼ同じなので、内容紹介は省略します。 そちらを参照してください。

江戸川区子ども未来館での活動(2)

和田勝会員が、8月17日の午後に、江戸川子ども未来館の夏休み応援プロジェクトの一つとして「生き物は細胞でできている」というテーマで、小学校児童11名に実験授業を行いました。15名の応募があったということでしたが、欠席が予想よりも多かったようです。 例年時間が足りずにあわただしいので、今年は午後1時から4時まで、3時間の枠を取ってもらいました。途中で休みを入れるつもりです。

始まる前の静かな実験室。写っているのはボランティアで補助をしていただいた高校生Mさん。

事前に11ページほどの 資料を送付してコピーをお願いしておきました。少し早めに子ども未来館2階の会場に到着すると、子ども未来館の前川さんが顕微鏡などを並べ、準備をしておいてくれていました。コピーされていた資料を机の上に置き、小さなシャーレに持参したゾウリムシを入れて配布し、底に敷く黒い紙も用意してもらいました。そのほかの準備を、ボランティアの方も交えて整えて、あとは1時の開始を待つばかりになりました。

基本的な内容は昨年のものと変わらないので、詳しいことは省略しますが、今回は、20倍の実体顕微鏡がテーブルにあったので、広告チラシを裁断して各自に配布しておききました。受講者の児童が入ってきました。気を引き締めて開始です。今回、いつもと違たのは大きなビデオカメラを持った人がいたことです。J:COM江戸川の方で、夕方の地域限定のニュースのために、取材に来てくださったそうです。撮影してもいいかを、口頭でみんなに確認して許可を受けました。

自己紹介の後、今日のテーマである「生き物は細胞からできている」の趣旨について説明しました。5年生の時に、メダカの発生やヒトの胎児のお母さんのおなかの中での成長について学習しますが、体が大きくなるということはどういうことか、細胞という単位の数が増えていくのだということを強調しました。

ところが細胞は普段の生活の中では目に見えないために、その存在に気が付きません。それで拡大する装置が必要だということを説明し、テーブルの上にある実体顕微鏡で広告のチラシの色のついた写真を眺めてもらいました。広告の魚や果物の写真は、小さな色の点で印刷されていることが分かります。色(色材)の三原色はCYMKがあることをちらっと説明しましたが、あまり興味はないようでした。確かに、細胞とは関係ありませんものね。で、その実体顕微鏡を使ってシャーレに入れたゾウリムシを観察してもらいました。小さな白いものが、ざわざわと泳ぎ回っています。さあ、このあたりから本題に移ります。光学顕微鏡を使ってゾウリムシの観察です。

顕微鏡は学校でもう使ったことがあるというので、操作法についてあまり詳しくは説明しませんでした。あとのほうで、対物レンズを下げすぎてスライドグラスを割ってしまうという事態が何件か生じたので、やはりちゃんと説明するべきでした。ともあれ、動き回るゾウリムシを観察することができました。

この後は、タマネギの鱗茎葉表皮細胞、ミニトマト果皮の表皮細胞、自分の頬の上皮細胞を観察してもらいました。タマネギとトマトの細胞の形や細胞の周りの部分(細胞壁ですが、最初はあえて名前を言わずに)の厚みの違いは?、植物細胞と頬の上皮細胞の違いは?、など自分で考えるように促しました。

細胞の数が増えることによって、体が大きくなっていくのだということを実感してもらうために、ウニの発生の動画を見てもらいました。そのあとで、ネギの根端分裂組織を観察して、分裂像を探してもらいました。

分裂像は、見つけられた児童も見つけられなかった児童もいましたが、細胞の中には一つだけ核があって、その中には染色体があって、そこに遺伝子が乗っているんだよ、ずっと後で習うことだけどね、という話で終わらせました。長丁場で聞いているほうは、ちょっと疲れたかもしれません。先生も疲れました。あ、そうそう、休み時間はちゃんと取りました。その間に、J:COMのカメラマンの方はインタビューをしていました。

次の動画が、8月19日午後5時からJ:COM江戸川のニュースで流れたものです。とてもよく編集されていて、ナレーションもよく、実際以上に児童たちはよい体験をしたと受け取ってもらえるかもしれません(ちょっと謙遜)。

受講した児童からのアンケート結果は以下のようなものでした(回答数11)。

わかった度 Good 5、 Fair 5、 Poor 1
わくわく度 Good 4、 Fair 6、 Poor 0

感じたことやわかったことをかく欄には、次のような記述がありました(抜粋、原文ママ)。
「説明がとても聞きとりやすかった。このじゅ業を受けてよりさいぼうのことを知りたくなった。もっといろいろなさいぼうを観察したい」「きそく正しくびっしりとつまっている」「赤いえきをたらしたら、とても見やすくなって、びっくりした」「今日の講座では、細胞についてわかりました。自分のほほの中からトマトまで、いろんな細胞まで見れました。自分のほほの中の細胞があることにびっくりしました。<-細胞という言葉をしらなかった」「食べ物にも細胞があり、分裂もすることがわかった」「野菜(トマト)は、色素が赤いから、トマトの実は赤くなる。単細胞生物と多細胞生物がある事を知りました」