「活動記録」カテゴリーアーカイブ

市川学園市川高等学校での活動

市川学園市川高等学校は、今年度から4期目のSSH指定を受け、2年生のうち理系生徒が課題研究を行うことになりました。その課題研究を実施するにあたり、テーマ設定に向けて先行研究の調査を行い、それをもとに研究構想を練り上げて発表する、ポスター発表会が6月14日、17日、18日、19日と4日間にわたり、学園のコミュにティープラザで行われました。SSISSメンバーは、会議と重なった18日を除いて、14日には、伊藤眞人、小林憲正、進藤哲央、町田武生、和田勝、17日には町田武生、和田勝、19日には伊藤眞人、町田武生、和田勝各会員が参加して、質疑及びコメントにあたりました。

発表会は、2年生のうち理系生徒259名による総計220件の研究計画のポスター発表で、各日とも、13:10から15:00までの間、3グループに分かれて、各グループ15分ずつ、5分の休憩をはさんで2回行われました。15分ずつの定められた時間内での発表のため、各日とも私ども5名ないし2名、3名が全てを視聴することはとてもできませんでした。それでもそれぞれができる限りの質疑、アドバイスを行いました。先行研究を調べ、それを発展させて、何をどのように解析するのかを発表しているのですが、発表の内容はきわめて多岐にわたり、具体化には程遠いものがあったり、実験計画としてムリなものもあったりで、可能な限りのコメントやアドバイスを行ったつもりです。生徒たちは、アドバイス等をメモしたりして、熱心なやりとりが行われたと思います。研究分野には化学、生物以外に物理、地学、数学がありますが、今回の220件中101件が物理であり、私どもでは手薄でした。

生徒たちは、今後、毎週1日午後の時間の全てをあてて実験を進め、11月に概ねの研究成果がまとめられ、その後、学年末までに完成させる手筈であると聞いています。私どもの指導、助言の効果が発揮されることを期待したいと思います。

なお、6月14日15時から16時には、見学に来ていた他校教員等との情報交換会が行われ、私ども5名もこれに参加しました。詳細な資料が配れれ、市川学園のSSH担当責任者から、2009年以来の課題研究の実施の概要が説明され、その評価や成果が示されました。1、2期目の反省から、3期目からは研究期間を延長して、1年生の冬休みにテーマを考えさせ、3学期に面談してテーマを決めていき、2年生の初めからテーマに関して先行研究の調査を行い、実験計画を立てて、今回の発表に至るようにしたようです。これに並行して、実験ノートの重要性とその取り方、文献検索の方法、ポスターの作成など、市川サイエンスとして講義を行っています。
他のSSH事業校教員の参加がなかったのが残念に思われました。

市川学園市川高等学校での活動

2024年3月14日に、町田武生会員が市川学園市川高等学校で開催された、SSH年度末生徒研究発表会に参加し、ポスター発表を視聴し、質疑を行いました(図と写真はすべて市川学園市川高等学校のSSHのページよりお借りしています)。

市川高等学校では、1年の12月に理系・文系の選択が決まると、理系を選択した生徒全員がテーマの設定を行い、2年生になると文献調査を経て、実験を行います。図にあるように、1年間にわたって「市川サイエンス」という授業で構想段階の発表会、実際の実験、中間発表会を経て、3月に最終のポスター発表会を行っています。

今年度は、2年生の理系選択生徒は230名で、発表件数は、数学10件、物理51件、化学48件、生物52件、地学10件の計171件でした。広い体育館にポスターが展示され、全体を3群に分け、発表のコアタイムの時間帯を決めて実施されました。

発表会に参加したのは、高2の生徒に加えて、この4月から課題研究に取り組む高1や、来校された研究者の方々の他、理数以外の全教科の教員も参加しました。

時間が短かすぎて、生物だけでも全てを視聴できませんでしたが、どの研究もかなりレベルが高く、1年間じっくりと取り組んできた成果が窺えました。おそらく、現象の中から課題を見出し、論理的に思考して研究を進めることを強く意識するように、指導が徹底しているのだと思われます。

これらの中から24件が県の課題研究発表会に出されました。この学校は研究指導能力の高い理科教員が30名以上いて、多岐にわたる生徒の研究課題に適切に対応していて、内外のさまざまなコンクールやコンテストに応募して次々に受賞するなど、SSHの理科課題研究の成功例と言えるでしょう。研究倫理や生命倫理などに背かない配慮が十二分になされていることも特筆されます。

今回はSSH第3期の最後の発表会でしたが、次期SSHも採択され、4月より新たな取り組みが実施されます。研究の終了後の発表よりは、中途での質疑応答の方が研究の進行には有益なので、SSISSとしては今後は中間発表会を見せていただきたいと強く思いました。

千葉県高校課題研究発表会

3月16日に、町田武生会員と和田勝会員が、千葉工業大学津田沼キャンパスでで行われた課題研究発表会に参加して、助言活動を行いました。

これは、SSHコンソーシアム千葉とサイエンススクールネット千葉主催による千葉県SSH指定校と理数科を設置している高等学校12校の生徒による課題研究発表会で、指導・助言者として上記2名が参加しました。我々以外に、県内外の大学などから21名の指導助言者が参加していました。受付で分厚い「千葉県高等学校課題研究発表会発表要旨集」と実施要項、それとコメントを書き込む用紙を挟んだバインダーが渡されました。指導助言者控室で打ち合わせがあり、各会場に分かれました。

午前中は口頭発で、物理10、化学12,生物13,地学7,数学・情報8件の発表があり、指定された生物会場2での割り振られた生物4課題の発表に対して指導・助言を行いました。下の写真は口頭発表会場の始まる前の風景です。

午後はポスター発表があり、物理52,化学53、生物65、地学18、数学・情報29、合計217件の発表がありました。生物65課題は前半と後半に分かれてポスター前での説明があり、我々は生物の2会場を回って、説明係の説明を聞き、コメントをしました。

課題のすべてを発表者の説明を聞き、ディスカッションすることはできなかったっが、やり取りをしたものはコメントシートに記入して提出しました。いずれの発表も熱心に取り組んでいる様子がうかがえました。ただ、実験計画が十分に考えてたてられていなかったり、ポスターに載せられたグラフの表示方法など、改善が必要だと思われるものもありました。

東村山第三中学校での活動(6)

2024年3月6日に、進藤哲央会員が東村山市立第三中学校で「原子の世界と放射線」というタイトルで、3年生全員を対象に、4クラスに分けて理科の出前授業を行いました。受講した生徒は40名のクラスで4回なので、トータル160名でした。一時的見学を含めて、先生も3-4名参加しています。

今回は「原子の世界と放射線」というタイトルで、ミクロな世界についてのお話や、不安定な原子核の崩壊とその時にでてくる放射線についての授業で、持参したGM計数管や霧箱を用いて放射線の様子を観察してみるという50分間の授業でした。

授業の初めに、1977年にイームズ事務所が作成した「Powers of Ten」の動画を視聴し、自然界の様々なスケールで現れる物理的様相を概観しました。この動画は、視点が10ずつ拡大して芝生に座った人から宇宙まで飛行したのち、再び元に戻って今度はヒトの体内に入っていき、原子核までたどり着くという動画です。授業では、ミクロな世界にフォーカスして、原子・分子・原子核あたりの話を中心に講義しました。

特に、原子核を構成する中性子の数が異なる、同位体と呼ばれる原子が存在することを説明しました。下の図は、「Powers of Ten」で表示されている、たぶん炭素原子の核の構造です。

不安定な原子核は、一定の寿命・半減期で崩壊して、その際にアルファ線やベータ線、ガンマ線などを放出すること、これらの放射線の正体は高エネルギーで飛び出してくるヘリウム原子核、電子、光などであることなどを解説しました(下の図は、ここからお借りしています)。

実験として、GM計数管を用いると、教室内で1分間に約20カウント程度が測定できることを実演してみせ、前撮りしておいた放射線源を用いたGM計数管を用いた測定の様子を動画で見せて、放射線の種類による物質の透過力の違いを実感してもらいました。

筆者は、RI室に入るときにこんなGM計数管を使っていましたが、今はこんな小さなガイガーカウンターがあるんですね。

最後に、持参した霧箱を用いて、天然鉱物から出てくる放射線の痕跡を実際に見てもらいました。霧箱で放射線の痕跡が見えるの原理は次の図の通りです(下の図は原子力科学館のページからお借りしました)。

この動画は東京都健康安全研究センターが作成したもので、そこからお借りしています。

千葉県佐倉高校での活動(3)

2024年2月10日に、奥田治之会員が千葉県立佐倉高校で「赤外線による宇宙の研究」というタイトルで出前授業を行いました。受講した生徒は1、2年生の14名でした。先生も3名参加しています。

赤外線は、可視光線の赤よりも波長が長い、1から400μm程度の範囲にある電磁波のことで、ハーシェルによってプリズムを通した太陽光のスペクトルの中で、赤よりもさらに外側で温度計による測定で最も温度が上がることから発見されました。赤外線には可視光線に近い波長の近赤外線(0.7-2.5μm)、ずっと長い遠赤外線(4-1000μm)、その中間の中間赤外線に分けることがでます。赤外線は、宇宙にある低温度の星や星間物質、ダストなどの、可視光線では見えない天体を観測するのに適しています。

この赤外線を検出する技術の進歩に伴って、20世紀中期より天体、宇宙の観測を赤外線を使って行うことが始まり、新天体、新現象の発見が相次いでいます。赤外線観測にとって障害となるのは地球大気であるために、大型の気球を使ったり、観測機器を衛星として打ち上げたりします。赤外線観測の歴史については、ここをご覧ください。

赤外線の特徴を生かした研究として、以下のものを挙げることができます。

1)塵まみれの宇宙:低温度の熱放射の観測により、宇宙塵の分布、組成が明らかになり(上の2枚の写真はオリオン座を可視光と遠赤外線で観測したもの)、また、それから生まれる星の誕生過程が明らかになりました(下の3枚の写真はオリオン星雲中に見つかった生まれたての星)。

NHK for School先生向けにある「星のゆりかご オリオン大星雲」の動画へのリンクです。

このように、宇宙のあらゆるところに温度の低い個体微粒子(宇宙塵、ダスト)が存在することが明らかになりました。

2)塵雲を透かして見る宇宙:可視光に比べて格段に透過力が上がり、暗黒星雲の内部、銀河中心などの構造、ブラックホールの存在が明らかになりました。

次の写真は、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した「わし星雲」の「創造の柱」の画像で、左は可視光で撮影したもの、右は近赤外光で撮影したもので、右では、ガスと塵を透過し、星雲の後ろや柱状の構造中に隠れている星が現れているのがわかります (C) NASA, ESA, and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)。このページよりお借りしています。

次の写真は、銀河系の近赤外線像です。

現在の銀河系像は、直径10万光年のガスと約2000億個の星の大渦巻で、太陽系付近でおよそ2億年で1回転すると考えられています。Sunとあるのが太陽の位置で、中心から2.5万光年離れた位置にあります。

3)新しいプローブで見る宇宙:赤外線特有のスペクトル線による、炭素、酸素などの新しいガス成分の検出ができるようになりました。

2006年 2月に 、J AXA 宇宙科学研究所の M-V ロケットで打ち上げられた「あかり」衛星は,日本初の本格的な赤外線天文衛星で、全天を 9μm から 160μm までの 6バンドで観測するとともに、指向観測モー
ドによって多数の天体の詳細観測を行いました。赤外線望遠鏡に必須の装置を冷却する装置(液体ヘリウム、機械式)が使用できなくなったので、2011年に観測を終了しました。

上の図は、「あかり」による大 マ ゼ ラ ン 雲 中 の 超 新 星 残 骸 N 49の 5つの 場 所(P1~P5)での近赤外線スペクトルです(一番下は背景スペクトル)。赤で示しているように、P1~P4の場所に 3.3μmの輝線バンドが検出されていることがわかります。この輝線バンドは、多環式芳香族炭化水素によるものと考えられます。この図はここよりお借りしています。詳しくはこの論文を見てください。

4)遠い宇宙は昔の宇宙:遠方銀河から放たれた光は、大きなドップラー偏移によって赤外域に移動するので、これを観測することにより、宇宙の果て、宇宙の始まりの研究が可能になりました。

 ビッグ・バンによって宇宙が誕生した直後は、超高温、超高密度の小さな宇宙ですが、時間がたち膨張するにしたがって、その温度と密度は小さくなります。その間に重力や電気・磁気の力などの基本的な力が生まれてきます。宇宙が生まれてほぼ1秒後には電子や陽子など私たちにおなじみの素粒子、さらに光が誕生しています。このときの宇宙の大きさは1光年ぐらい、温度は100億度です。さらに、数分後には水素やヘリウムなどの原子核が生まれています。
 そして、宇宙の誕生から約38万年後、宇宙の大きさが1000万光年ほど、温度が約3000度になると、水素やヘリウムの原子核と電子が結びついて、水素やヘリウムの原子ができあがります。このとき、やっと光が物質から離れて自由に飛びまわれるようになるのですが、これを宇宙の晴れ上がりとよんでいます。そしてこのときの光が、3K宇宙背景放射として、現在も観測できるのです。逆にいうとこれより前の宇宙のようすは、直接見ることはできません。また、宇宙の誕生から10億年ほどたつと銀河が作られはじめます。それから、さらに膨張をつづけて現在の宇宙になったというわけです。この項、国立科学博物館のこのページより。

全体のまとめです。
.1800年にウィリアム、ハーシェルによって発見された赤外線は、検出器の感度不足のため、久しく天体観測には利用されなかった。
.20世紀中ごろから始まった高感度検出器の開発によって、新しい時代を迎え、急速な発展を遂げている。
.それによって、他の波長域では、見られなかった、新たな天体や天体現象が矢継ぎ早に発見され、天文学に新しい地平を切り開いている。
.いまや、天文学のあらゆる分野に観測は拡張され、様々な成果を挙げている。特に、星の誕生過程、宇宙の固体物質(ダスト)、銀河中心のブラックホール、原始銀河探索、宇宙背景放射の研究にユニークな成果を挙げている。

東村山第三中学校での活動(5)

2024年2月8日に、小林憲正之会員が東村山市立第三中学校で「地球環境の変遷と生命の誕生」というタイトルで出前授業を行いました。受講した生徒は1、2年生の16名でした。先生も2名参加しています。

科学クラブの1、2年生部員を対象に、60分間、講義と簡単な作業・観察を行ってもらいました。

前半では、46億年の地球の歴史の中で、地球環境は大きく変化してきたこと、その中で生命が誕生したり、大絶滅が起きたりしたことを解説しました。下の図は、ここからお借りしています。

後半では、地球生物が用いているアミノ酸が、非対称の分子であることを分子模型を使って確かめてもらいました。光にも円偏光という非対称のものがあること、コガネムシを左右円偏光板を通して観察すると、異なって見えることを調べてもらい、円偏光のような物理の非対称性と生命起源とが関係している可能性について述べました。

千葉県立佐倉高校での活動(2)

2024年1月30日に、小林憲正政会員が千葉県立佐倉高校で「宇宙の起源を探る」というタイトルで出前授業を行いました。受講した生徒は1年生の37名でした。先生も4名参加しています。

2校時(2×45分)を使って、講義と簡単な作業・観察を行いました。前半では,生命の起源について,どこまでわかっているかについて資料をプロジェクターで投影しながら解説しました。

後半では、地球に現存する生物が用いているアミノ酸が、左手型(L体)に偏っている原因がまだわかっていないことを説明し、分子模型を使って,アミノ酸などの生体分子が非対称であることを確かめてもらいました。

光にも円偏光という非対称のものがあること(下の図はここから借りました),コガネムシを左右円偏光板を通して観察すると,異なって見えることを調べ,円偏光のような物理の非対称性が生命起源と関係している可能性について述べました。

千葉県立佐倉高校での活動(1)

2023年12月12日の午後に、佐々田博之会員が千葉県立佐倉高校で「マイ分光器を作り光源の性質を調べよう」というタイトルで出前授業を行いました。受講した生徒は1年生の38名でした。先生も2名参加しています。

2校時(2 x 45分)を使って簡易分光器を自作し、様々な光源を観測しました。1年生は波動についてはまだ学習していなのですが、説明は10分程度で済ませて、分光計の製作に時間をかけました。

持参して配布した型紙に合わせて工作用紙を切って形を作り、回折格子シート500 line/mmを貼り付けてもらいました。1時間目で約20人が、2時間目まで全員が完成させることに成功しました。これと同じ授業は、2022年7月に行っているので、原理や工作の過程などはそちらをご覧ください。

さっそく自作した分光器で、各種の照明(白熱電球、Hg入り蛍光灯、LED蛍光灯)、スペクトルランプ(Ne、 Ar)を観測しました。連続スペクトルと線スペクトルについて説明し、元素は固有の波長の線スペクトルを持つことを説明しました。

自作の装置で綺麗なスペクトルが観測できて、生徒達も楽しんでいて、モチベーションが上がったと感じました。残念ながら雨が降っていて天気が悪く、太陽のフラウンホーファー線は観測できませんでした。晴れた日に観測するように言い置きました。

フラウンホーファー線とは、太陽光の可視光スペクトルの中に暗線として観測されるもので、太いものと細いものがあり、それぞれ記号が付けられています。下の図はWikipediaからお借りしています。

それぞれの線は、太陽の上層に存在する各種の元素や地球の大気中の酸素などによって吸収されたスペクトルです。たとえば上の図のBは酸素分子、D(2本)はナトリウム原子による吸収です。
このサイトも参考になります。

第15回八王子市中学校科学コンクール発表会に参加

12月2日に八王子教育センターで開催された、第15回八王子市中学校科学コンクール発表会、表彰式に、伊藤真人、大井みさほ、奥田治之、西原 寛、佐々田博之、町田武生、和田 勝会員が出席しました。このコンクールは主催:八王子市教育委員会、八王子市立中学校PTA連合会、後援:八王子市立中学校長会、協賛:オリンパス株式会社、NPO法人SSISS(科学技術振興のための教育改革支援計画)で実施されたものです。今年度は久しぶりにポスター発表が復活し、口頭での発表と併せて行われました。参加者も人数の制限はあったようですが、父兄や教員などに拡大して開催されました。会場はセンター3階の大会議室です。

36校の八王子市立中学校から96の自由研究作品が提出され、その中から先生たちによって22作品が入賞となり、さらに、最優秀賞1件、優秀賞1件、奨励賞5件、来年度のためのポスターイラスト賞2件が選考されました。

当日は、選ばれた奨励賞5件のポスター発表と、最優秀作品と優秀作品の口頭での発表が行われ、その後で、各作品に対する表彰式が行われました。次の写真は、開会前に撮影した来賓と受賞者の勢揃いのものです。前列左端がSSISS西原寛理事長です。

定刻の1時に八王子市教育委員会教育長安間英潮さんの開会のあいさつがあり、その後、八王子市長石森孝志さんのあいさつ(「科学する心を育む」と強調されていました)があり、その後、オリンパス株式会社の担当役員の田代芳夫さんのあいさつがありました。こちらもオリンパスの内視鏡の開発の歴史、40年以上もこの分野を牽引してきたと述べて、科学する心を強調していました。

1時半からポスターセッションが開始されました。奨励賞を受賞したのは、以下の5件です。
1)消化酵素の働きー胃薬は消化を助けるのか
   いずみの森義務教育学校 三浦遥馬
2)~SDGsについて考える~牛乳から作る「カゼインプラスチック
   第六中  次田優希
3)地上に届かない雨~地球温暖化や二酸化炭素濃度の上昇で雨が蒸   
  発する 石川中 大月さくら、井汲孝介、亀田一樹(天空の三重
  奏)
4)なぜ台風一過が起こる時と起こらないらない時があるのか
  綾南中  高橋恵理奈
5)水中シャボン玉の秘密
  松木中  笹原来実

セッションは、1ラウンド10分ずつ、1,3,5と2、4の二つに分かれてそれぞれ3回繰り返されました。展示されたポスターの前にはテーブルが置かれ、実験に使った器具やデータなどが並べられていました。発表のたびにポスターの前に集まって発表を聞き、発表に対して質疑応答がありました。次の写真は、1,3,5、2、4の順です。

1)は、様々な溶媒(水、コーヒー、牛乳、スポーツドリンク、ジュース、アルコール)に市販の胃薬を溶かして豚肉片を入れ、2-12時間後の豚肉片の変化を観察して、どの溶媒がよいかを比べています。
3)は、気象庁のデータを表計算ソフトで解析して、最近の日本では、雨の降る日は大量に降り、降らない日は全く降らないという差が顕著になっていることを見出し、雨のもととなる上空の水蒸気量が蒸発により減少する条件を気温、湿度、二酸化炭素量などの条件を変えて実験的に調べています。
5)は、水中シャボン玉(石鹸水をストローで石鹸水中に落とすと、落とした水滴が空気の層で包まれて玉になる)をうまく作るための条件をいろいろと調べています。洗剤の濃度や、水滴の大きさを変えるためにストローの径を変えたりして、最適な解を求めています。
2)は、環境にやさしいプラスチックとして、牛乳のカゼインからプラスチックを作成しています。牛乳の種類を変えて、出来上がったプラスチックを比較し、実際に土壌中に埋めて分解され方を見ています。
4)は、台風一過、すなわち台風が通り過ぎた翌日にきれいに晴れ上がる現象が、起きる場合と起きない場合があることに気が付き、どんな条件でそうなるかを、直近の10年間の気象庁と国立情報研究所のデータから解析しています。その結果、台風の中心気圧の高さや風速とはあまり関係なく、八王子が台風の進路の東側になるときに台風一過になる確率が高いことがわかりました。また、偏西風の向きが日本列島に沿っているときも起こりやすいという結果でした。

普通のポスターセッションと異なり、ポスターの前にテーブルを置いて、写真にあるように実験に使った器具や資料を並べて、各演者は説明をしていました。聴衆はテーブルの前に置かれた椅子に座り、さらにその後ろに立ち見で集まり、熱心に聞き、終わるといろいろと質問をしていました。

ポスターセッションが終わった後、関係者は別室に集まって、各賞の受賞者を誰にするか話し合いました。SSISSは1)の「消化酵素のはたらき」に送ることを決めました。それ以外は、PTA連合が2)、教育長が3)、校長会がが4)、オリンパスが5)でした。

この後、再び会議室に戻り、最優秀賞と優秀賞に選ばれた以下の2題の、スライドを使った15分の口頭の発表がありました。
優秀賞 死骸はどこへ?ー土に生きる分解者たちー
   椚田中  古市明日香
最優秀賞 みなみ野のセミ調査!
   みなみ野中  山本響子

古市さんは、大好きなセミの抜け殻が土に落ち、最後にはなくなってしまうことや、森の落ち葉が森中にあふれたりしないのはどうしてなのだろうかと疑問を持ち、調べたということでした。地面の表層にはミミズやダンゴムシなど、深いところにはオオセンチコガネがいますが、いろいろ調べてもっと大きな働きをしている「微生物」に行きつきました。実際に分解するかどうかを実験で確かめ、微生物が大きな役割を果たしていることを理解し、さらに生物のつながり「生態系」にまで考察が及びました。

山本さんは、中学1年の夏休みに、自分の住むみなみ野にはどのようなセミが生息しているかを知るために、セミの抜け殻を集めたのがきっかけで、2年生、3年生とセミの調査を続けてきたそうです。今回の発表がその集大成なのですね。

セミに抜け殻からその種を同定し、みなみ野に生息するセミの種類と数を推定し、気候との関連を調べたところ、高温・乾燥に強いセミが増加し、湿った環境を好むセミが減少していることが分かったということでした。

それぞれの講演に対して、活発な質疑応答が行われました。

その後、表彰式が行われました。教育委員会の西山豪一さんから、最優秀賞の山本さんへは賞状とトロフィー、優秀賞の古市さんへは賞状と盾が贈られました。

審査員奨励賞5件のそれぞれに、教育長、オリンパス、SSISS、校長会、PTA連合会からそれぞれ賞状が贈られました。

下のは、特にSSISS賞を西山理事長が授与しているところの写真です。

今回表彰された9人の方々すべてに、副賞としてSSISSから東京化学同人出版の「教養の化学-生命・環境・エネルギー」と誠文堂新光社出版の「天文年鑑2024」が贈られました、太っ腹!どちらも、SSISSの会員が執筆を担当している本です。前者は西原寛理事長、小林憲正、黒田智明、伊藤眞人さん、後者は萩野正興さん。

全体の講評は西原寛理事長が行いました。

閉会の言葉があり、無事にコンクールの全行事は終了しました。全受賞者の記念写真です。みんな、誇らしげですね。

最後に、当日参加したSSISSの「七人の侍」の記念写真を載せておきます。

余計な感想ですが、発表者以外に八王子中学校の生徒さんの参加がなかったのが、残念に感じました。

東村山第三中学校での活動(4)

10月24日に進藤哲央会員が、東村山第三中学校で自然探求部の活動を支援して、「科学の目で世界をみたら」というタイトルで講演を行いました。部員20名が参加し、教員も3名、加わりました。講演の内容は、簡単な自己紹介の後、「科学とは」「素粒子と宇宙」「霧箱を楽しもう」の3部構成で、パワーポイントのスライドを駆使して進めました。町田武生会員もオブザーバーで参加しました(写真は町田会員撮影)。

冒頭の自己紹介では、中学・通学高校時代のクラブ活動の様子や、これまでの地球上での自分自身の移動の様子を紹介しました。

さて本題です。第1部の「科学とは」では、ふだんあまり授業などでは触れないであろう、「科学とはどのような営みか」という部分に焦点をあて、科学哲学の初歩的な内容を、自分のふだんの研究活動における経験に基づいて、やや概念的な話をしました。

自然科学とは、1)自然を理解しようとする試みであり、2)世界を観察(観測)することから始まること、その結果、3)自然界の現象には、秩序・法則があるように見えること、そこでその法則を明らかにしようとする学問です。科学者は、そのために、自然を観察(主に種々の現象を数値化するために測定)します。自然現象は非常に複雑なために、測定値には必ず誤差が伴います。それを踏まえたうえで、観察あるいは測定結果を説明するためのモデル(仮説)を作成します。その際、より少ない仮定で説明できる仮説が良い仮説であるという、オッカムのカミソリが重要になります。
少し難しい話ですね。筆者は「オッカムのカミソリ」の話を、大学1年の哲学の講義で初めて聞きました。
実験科学では、仮設の検証のために、実験を行い、仮説が成り立つかどうかを検証します。

こうした抽象的な内容を具体的にイメージしてもらうため、天動説と地動説の話などの歴史上の物語も交えつつ、約30分程度の話にまとめました。
「視差」を実感するために、人差し指を顔の前に突き出してみてください。左右の目を交互につぶって指先を見つめると、指先の延長線上の遠方にある物体が、左眼をつぶった時と右眼をつぶった時で位置が異なって見えます。これを両眼視差といいます。さて。天動説では、星は天球に張り付いてるので、地球から見てその位置関係が変わることはありません。しかし実際には、春分の日と秋分の日で、星の位置関係が変わります。これは地球が太陽の周りを公転しているからです。これを年周視差といいます。

地動説を復活させたのは、有名なコペルニクスですが、当時の観測精度では、遠くにある恒星の年周視差を測定することはできませんでした。地動説は主として、太陽系の惑星(水、金、地、火、木、土、天)の動きや見え方をもとに考えられたのです(下のコペルニクスの描いた太陽を中心とした図はここからお借りしています)。特に、水星と金星の見え方と火星、木星などの見え方の違いを、天動説では説明できませんでした。また、オッカムのかみそりで述べたように、天動説はいろいろな余分な仮説や計算が必要であったのに対して、地動説はシンプルでした。

ただし、コペルニクスの地動説の惑星は円軌道を想定していたので、予測精度は天動説に比べるとが落ちていました。

ティコ・ブラーエの精密で長期間にわたる測定結果を解析し、惑星が太陽の周りを楕円軌道で回っているなどの法則を発見したのが、ケプラーです。このモデルによって天動説よりも正確な予測ができるようになりました。また、ケプラーの三法則は、万有引力の発見に近づくものでした。ちなみに、微小な年周視差が観測されたのは、1838年でした。

 第2部の「素粒子と宇宙」は自分の専門分野である素粒子や、宇宙初期の話をしました。第1部とのつながりも多少は意識し、誰も直接見たることのできない極ミクロの世界の様子や、時間を巻き戻すことができない中で、宇宙の初期に何が起こったのかなどを、科学の観点からどのようにして確信を持って調べていくかについても、適宜触れつつ、最新の素粒子や宇宙に関する研究について解説を約30分で行いました。
現在では、水分子とそれを構成する原子の構造について、次の図のようであると知っていますが、大きさを見るとわかるように、眼で見ることはできなし、顕微鏡でも観察することはできません。

それでは、どのようにして原子の存在を知ったのでしょうか。化学反応における法則(ラボアジエの質量保存の法則、プルーストによる定比例の法則、ドルトンによる倍数比例の法則)によって、化学反応は基本粒子の組み換えで説明できることがわかり、原子説が提唱されました。実際に原子そのもの見たわけではないのですね。
その後、J.J.トムソンの陰極管を使った陰極線の実験により、電子の存在と、それが電荷をもつことが明らかになります(下の図はWikipediaのトムソンの記事からお借りしています)。青い線で表した電子線は黄色で表した電場によって下へぶれています。プラス・マイナスを逆転すると、軌跡は上のほうにぶれます。

こうして、原子を構成する電子の実在が確かめられ、原子模型が提唱されていきます。トムソンは正の電荷を帯びた海の中を電子が漂っているものと想定しましたが(ブドウパンモデル)、後にラザフォードは正電荷は中心の核の中に集中しているという現在のものに近いモデルを提唱します。
分子のほうはどうでしょうか。1828年に植物学者のブラウンが、水に浮かべた花粉の殻が破れて飛び出した微粒子が、不規則な運動を続けることを観測しました。次の図はシュミレーションで1000ステップを表示したものです。(0、0)が始点です(Wikipediaからお借りしています)。

しばらくはこの運動がどうして起こるのか分かりませんでしたが、1905年にアインシュタインが媒質の水分子の不規則な衝突が原因であるという仮説を立て、数式を提出、1908年にはペランが実験的にこれが正しいことを確認しました。こうして水分子が実際に存在することが認められたのです。ちなみにペランは、この式からアボガドロ数を計算しています。
こうして、我々の身の回りの物質はすべて、原子とそれから構成される分子からできていることが明らかになりました。原子の中心には核があるのですが、核には正電荷を持つ陽子と質量の関係から電荷をもたずに陽子と同じ質量をもつ中性子からなっていると考えられました。正電荷を持つ陽子が反発せずに集まっているためには、何か結び付けているものが必要だと考え、湯川秀樹は中間子という理論を提出しましたが、後になって、陽子や中性子も基本的な粒子ではなくさらに素粒子からなることが明らかになり、素粒子標準理論へとまとめられていきます。2012年にはヒッグス粒子が発見され、標準模型は確立しました。次の図は、その素粒子の一覧表です。この図と次の図は、とても魅力的な次のサイトからお借りしてます。
物質粒子が陽子や中性子を構成する素粒子で、ゲージ粒子は、それらを素粒子どうしをくっつけたり離したりするための素粒子、ヒッグス粒子はちょっと説明のむずかしい特別な素粒子です。

上に掲げた水分子の図を、素粒子の世界まで広げると次のようになります。


このあたりの素粒子物理学については九州大学附属図書館のこのサイトがとても参考になります。イントロから順に見てみてください。

素粒子から原子が構成され、それが分子を生むというのは分かりました。それでは、物質の始まりはどんなものだったのでしょうか。ここで宇宙の始まりが問題になります。20世紀初めまでは、宇宙は不変で定常的と考えられていましたが、ハッブルによって遠方の銀河が遠ざかっているという観測により、宇宙は膨張していると考えられるようになり、その必然として時間をさかのぼれば、宇宙の初めは超高温・超高圧の火の玉で、これが大爆発を起こして始まったと考えられるようになりました(ビッグバンあ説)。この時は素粒子はバラバラで存在していたのが、冷えていく過程で水素原子ができ(下の図の赤から青に変わる3000Kのころ)、さらに核反応を起こして重い元素ができていったのです。ウーン、だいぶ難しくなってきました。素粒子にも宇宙のも、まだまだ解明しなければならない謎がたくさんあるようです。

 第3部「霧箱を楽しもう」では、持参したペルチェ素子式の霧箱を用いて、放射線の痕跡を見てもらいました。

最初は線源を入れずに観測してもらい、自然放射線の痕跡がそこそこの頻度で見られることを確認してもらった上で、天然鉱石の線源を投入し、やや派手な放射線の痕跡を観察してもらいました。

当初は1時間の予定でしたが、内容を盛り込みすぎたこともあり、1時間半弱ほどのやや長丁場となってしまいました。