千葉県佐倉高校での活動(3)

2024年2月10日に、奥田治之会員が千葉県立佐倉高校で「赤外線による宇宙の研究」というタイトルで出前授業を行いました。受講した生徒は1、2年生の14名でした。先生も3名参加しています。

赤外線は、可視光線の赤よりも波長が長い、1から400μm程度の範囲にある電磁波のことで、ハーシェルによってプリズムを通した太陽光のスペクトルの中で、赤よりもさらに外側で温度計による測定で最も温度が上がることから発見されました。赤外線には可視光線に近い波長の近赤外線(0.7-2.5μm)、ずっと長い遠赤外線(4-1000μm)、その中間の中間赤外線に分けることがでます。赤外線は、宇宙にある低温度の星や星間物質、ダストなどの、可視光線では見えない天体を観測するのに適しています。

この赤外線を検出する技術の進歩に伴って、20世紀中期より天体、宇宙の観測を赤外線を使って行うことが始まり、新天体、新現象の発見が相次いでいます。赤外線観測にとって障害となるのは地球大気であるために、大型の気球を使ったり、観測機器を衛星として打ち上げたりします。赤外線観測の歴史については、ここをご覧ください。

赤外線の特徴を生かした研究として、以下のものを挙げることができます。

1)塵まみれの宇宙:低温度の熱放射の観測により、宇宙塵の分布、組成が明らかになり(上の2枚の写真はオリオン座を可視光と遠赤外線で観測したもの)、また、それから生まれる星の誕生過程が明らかになりました(下の3枚の写真はオリオン星雲中に見つかった生まれたての星)。

NHK for School先生向けにある「星のゆりかご オリオン大星雲」の動画へのリンクです。

このように、宇宙のあらゆるところに温度の低い個体微粒子(宇宙塵、ダスト)が存在することが明らかになりました。

2)塵雲を透かして見る宇宙:可視光に比べて格段に透過力が上がり、暗黒星雲の内部、銀河中心などの構造、ブラックホールの存在が明らかになりました。

次の写真は、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した「わし星雲」の「創造の柱」の画像で、左は可視光で撮影したもの、右は近赤外光で撮影したもので、右では、ガスと塵を透過し、星雲の後ろや柱状の構造中に隠れている星が現れているのがわかります (C) NASA, ESA, and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)。このページよりお借りしています。

次の写真は、銀河系の近赤外線像です。

現在の銀河系像は、直径10万光年のガスと約2000億個の星の大渦巻で、太陽系付近でおよそ2億年で1回転すると考えられています。Sunとあるのが太陽の位置で、中心から2.5万光年離れた位置にあります。

3)新しいプローブで見る宇宙:赤外線特有のスペクトル線による、炭素、酸素などの新しいガス成分の検出ができるようになりました。

2006年 2月に 、J AXA 宇宙科学研究所の M-V ロケットで打ち上げられた「あかり」衛星は,日本初の本格的な赤外線天文衛星で、全天を 9μm から 160μm までの 6バンドで観測するとともに、指向観測モー
ドによって多数の天体の詳細観測を行いました。赤外線望遠鏡に必須の装置を冷却する装置(液体ヘリウム、機械式)が使用できなくなったので、2011年に観測を終了しました。

上の図は、「あかり」による大 マ ゼ ラ ン 雲 中 の 超 新 星 残 骸 N 49の 5つの 場 所(P1~P5)での近赤外線スペクトルです(一番下は背景スペクトル)。赤で示しているように、P1~P4の場所に 3.3μmの輝線バンドが検出されていることがわかります。この輝線バンドは、多環式芳香族炭化水素によるものと考えられます。この図はここよりお借りしています。詳しくはこの論文を見てください。

4)遠い宇宙は昔の宇宙:遠方銀河から放たれた光は、大きなドップラー偏移によって赤外域に移動するので、これを観測することにより、宇宙の果て、宇宙の始まりの研究が可能になりました。

 ビッグ・バンによって宇宙が誕生した直後は、超高温、超高密度の小さな宇宙ですが、時間がたち膨張するにしたがって、その温度と密度は小さくなります。その間に重力や電気・磁気の力などの基本的な力が生まれてきます。宇宙が生まれてほぼ1秒後には電子や陽子など私たちにおなじみの素粒子、さらに光が誕生しています。このときの宇宙の大きさは1光年ぐらい、温度は100億度です。さらに、数分後には水素やヘリウムなどの原子核が生まれています。
 そして、宇宙の誕生から約38万年後、宇宙の大きさが1000万光年ほど、温度が約3000度になると、水素やヘリウムの原子核と電子が結びついて、水素やヘリウムの原子ができあがります。このとき、やっと光が物質から離れて自由に飛びまわれるようになるのですが、これを宇宙の晴れ上がりとよんでいます。そしてこのときの光が、3K宇宙背景放射として、現在も観測できるのです。逆にいうとこれより前の宇宙のようすは、直接見ることはできません。また、宇宙の誕生から10億年ほどたつと銀河が作られはじめます。それから、さらに膨張をつづけて現在の宇宙になったというわけです。この項、国立科学博物館のこのページより。

全体のまとめです。
.1800年にウィリアム、ハーシェルによって発見された赤外線は、検出器の感度不足のため、久しく天体観測には利用されなかった。
.20世紀中ごろから始まった高感度検出器の開発によって、新しい時代を迎え、急速な発展を遂げている。
.それによって、他の波長域では、見られなかった、新たな天体や天体現象が矢継ぎ早に発見され、天文学に新しい地平を切り開いている。
.いまや、天文学のあらゆる分野に観測は拡張され、様々な成果を挙げている。特に、星の誕生過程、宇宙の固体物質(ダスト)、銀河中心のブラックホール、原始銀河探索、宇宙背景放射の研究にユニークな成果を挙げている。

東村山第三中学校での活動(5)

2024年2月8日に、小林憲正之会員が東村山市立第三中学校で「地球環境の変遷と生命の誕生」というタイトルで出前授業を行いました。受講した生徒は1、2年生の16名でした。先生も2名参加しています。

科学クラブの1、2年生部員を対象に、60分間、講義と簡単な作業・観察を行ってもらいました。

前半では、46億年の地球の歴史の中で、地球環境は大きく変化してきたこと、その中で生命が誕生したり、大絶滅が起きたりしたことを解説しました。下の図は、ここからお借りしています。

後半では、地球生物が用いているアミノ酸が、非対称の分子であることを分子模型を使って確かめてもらいました。光にも円偏光という非対称のものがあること、コガネムシを左右円偏光板を通して観察すると、異なって見えることを調べてもらい、円偏光のような物理の非対称性と生命起源とが関係している可能性について述べました。

千葉県立佐倉高校での活動(2)

2024年1月30日に、小林憲正政会員が千葉県立佐倉高校で「宇宙の起源を探る」というタイトルで出前授業を行いました。受講した生徒は1年生の37名でした。先生も4名参加しています。

2校時(2×45分)を使って、講義と簡単な作業・観察を行いました。前半では,生命の起源について,どこまでわかっているかについて資料をプロジェクターで投影しながら解説しました。

後半では、地球に現存する生物が用いているアミノ酸が、左手型(L体)に偏っている原因がまだわかっていないことを説明し、分子模型を使って,アミノ酸などの生体分子が非対称であることを確かめてもらいました。

光にも円偏光という非対称のものがあること(下の図はここから借りました),コガネムシを左右円偏光板を通して観察すると,異なって見えることを調べ,円偏光のような物理の非対称性が生命起源と関係している可能性について述べました。