「活動記録」カテゴリーアーカイブ

千葉県佐倉高校での活動(3)

2024年2月10日に、奥田治之会員が千葉県立佐倉高校で「赤外線による宇宙の研究」というタイトルで出前授業を行いました。受講した生徒は1、2年生の14名でした。先生も3名参加しています。

赤外線は、可視光線の赤よりも波長が長い、1から400μm程度の範囲にある電磁波のことで、ハーシェルによってプリズムを通した太陽光のスペクトルの中で、赤よりもさらに外側で温度計による測定で最も温度が上がることから発見されました。赤外線には可視光線に近い波長の近赤外線(0.7-2.5μm)、ずっと長い遠赤外線(4-1000μm)、その中間の中間赤外線に分けることがでます。赤外線は、宇宙にある低温度の星や星間物質、ダストなどの、可視光線では見えない天体を観測するのに適しています。

この赤外線を検出する技術の進歩に伴って、20世紀中期より天体、宇宙の観測を赤外線を使って行うことが始まり、新天体、新現象の発見が相次いでいます。赤外線観測にとって障害となるのは地球大気であるために、大型の気球を使ったり、観測機器を衛星として打ち上げたりします。赤外線観測の歴史については、ここをご覧ください。

赤外線の特徴を生かした研究として、以下のものを挙げることができます。

1)塵まみれの宇宙:低温度の熱放射の観測により、宇宙塵の分布、組成が明らかになり(上の2枚の写真はオリオン座を可視光と遠赤外線で観測したもの)、また、それから生まれる星の誕生過程が明らかになりました(下の3枚の写真はオリオン星雲中に見つかった生まれたての星)。

NHK for School先生向けにある「星のゆりかご オリオン大星雲」の動画へのリンクです。

このように、宇宙のあらゆるところに温度の低い個体微粒子(宇宙塵、ダスト)が存在することが明らかになりました。

2)塵雲を透かして見る宇宙:可視光に比べて格段に透過力が上がり、暗黒星雲の内部、銀河中心などの構造、ブラックホールの存在が明らかになりました。

次の写真は、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した「わし星雲」の「創造の柱」の画像で、左は可視光で撮影したもの、右は近赤外光で撮影したもので、右では、ガスと塵を透過し、星雲の後ろや柱状の構造中に隠れている星が現れているのがわかります (C) NASA, ESA, and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)。このページよりお借りしています。

次の写真は、銀河系の近赤外線像です。

現在の銀河系像は、直径10万光年のガスと約2000億個の星の大渦巻で、太陽系付近でおよそ2億年で1回転すると考えられています。Sunとあるのが太陽の位置で、中心から2.5万光年離れた位置にあります。

3)新しいプローブで見る宇宙:赤外線特有のスペクトル線による、炭素、酸素などの新しいガス成分の検出ができるようになりました。

2006年 2月に 、J AXA 宇宙科学研究所の M-V ロケットで打ち上げられた「あかり」衛星は,日本初の本格的な赤外線天文衛星で、全天を 9μm から 160μm までの 6バンドで観測するとともに、指向観測モー
ドによって多数の天体の詳細観測を行いました。赤外線望遠鏡に必須の装置を冷却する装置(液体ヘリウム、機械式)が使用できなくなったので、2011年に観測を終了しました。

上の図は、「あかり」による大 マ ゼ ラ ン 雲 中 の 超 新 星 残 骸 N 49の 5つの 場 所(P1~P5)での近赤外線スペクトルです(一番下は背景スペクトル)。赤で示しているように、P1~P4の場所に 3.3μmの輝線バンドが検出されていることがわかります。この輝線バンドは、多環式芳香族炭化水素によるものと考えられます。この図はここよりお借りしています。詳しくはこの論文を見てください。

4)遠い宇宙は昔の宇宙:遠方銀河から放たれた光は、大きなドップラー偏移によって赤外域に移動するので、これを観測することにより、宇宙の果て、宇宙の始まりの研究が可能になりました。

 ビッグ・バンによって宇宙が誕生した直後は、超高温、超高密度の小さな宇宙ですが、時間がたち膨張するにしたがって、その温度と密度は小さくなります。その間に重力や電気・磁気の力などの基本的な力が生まれてきます。宇宙が生まれてほぼ1秒後には電子や陽子など私たちにおなじみの素粒子、さらに光が誕生しています。このときの宇宙の大きさは1光年ぐらい、温度は100億度です。さらに、数分後には水素やヘリウムなどの原子核が生まれています。
 そして、宇宙の誕生から約38万年後、宇宙の大きさが1000万光年ほど、温度が約3000度になると、水素やヘリウムの原子核と電子が結びついて、水素やヘリウムの原子ができあがります。このとき、やっと光が物質から離れて自由に飛びまわれるようになるのですが、これを宇宙の晴れ上がりとよんでいます。そしてこのときの光が、3K宇宙背景放射として、現在も観測できるのです。逆にいうとこれより前の宇宙のようすは、直接見ることはできません。また、宇宙の誕生から10億年ほどたつと銀河が作られはじめます。それから、さらに膨張をつづけて現在の宇宙になったというわけです。この項、国立科学博物館のこのページより。

全体のまとめです。
.1800年にウィリアム、ハーシェルによって発見された赤外線は、検出器の感度不足のため、久しく天体観測には利用されなかった。
.20世紀中ごろから始まった高感度検出器の開発によって、新しい時代を迎え、急速な発展を遂げている。
.それによって、他の波長域では、見られなかった、新たな天体や天体現象が矢継ぎ早に発見され、天文学に新しい地平を切り開いている。
.いまや、天文学のあらゆる分野に観測は拡張され、様々な成果を挙げている。特に、星の誕生過程、宇宙の固体物質(ダスト)、銀河中心のブラックホール、原始銀河探索、宇宙背景放射の研究にユニークな成果を挙げている。

東村山第三中学校での活動(5)

2024年2月8日に、小林憲正之会員が東村山市立第三中学校で「地球環境の変遷と生命の誕生」というタイトルで出前授業を行いました。受講した生徒は1、2年生の16名でした。先生も2名参加しています。

科学クラブの1、2年生部員を対象に、60分間、講義と簡単な作業・観察を行ってもらいました。

前半では、46億年の地球の歴史の中で、地球環境は大きく変化してきたこと、その中で生命が誕生したり、大絶滅が起きたりしたことを解説しました。下の図は、ここからお借りしています。

後半では、地球生物が用いているアミノ酸が、非対称の分子であることを分子模型を使って確かめてもらいました。光にも円偏光という非対称のものがあること、コガネムシを左右円偏光板を通して観察すると、異なって見えることを調べてもらい、円偏光のような物理の非対称性と生命起源とが関係している可能性について述べました。

千葉県立佐倉高校での活動(2)

2024年1月30日に、小林憲正政会員が千葉県立佐倉高校で「宇宙の起源を探る」というタイトルで出前授業を行いました。受講した生徒は1年生の37名でした。先生も4名参加しています。

2校時(2×45分)を使って、講義と簡単な作業・観察を行いました。前半では,生命の起源について,どこまでわかっているかについて資料をプロジェクターで投影しながら解説しました。

後半では、地球に現存する生物が用いているアミノ酸が、左手型(L体)に偏っている原因がまだわかっていないことを説明し、分子模型を使って,アミノ酸などの生体分子が非対称であることを確かめてもらいました。

光にも円偏光という非対称のものがあること(下の図はここから借りました),コガネムシを左右円偏光板を通して観察すると,異なって見えることを調べ,円偏光のような物理の非対称性が生命起源と関係している可能性について述べました。

千葉県立佐倉高校での活動(1)

2023年12月12日の午後に、佐々田博之会員が千葉県立佐倉高校で「マイ分光器を作り光源の性質を調べよう」というタイトルで出前授業を行いました。受講した生徒は1年生の38名でした。先生も2名参加しています。

2校時(2 x 45分)を使って簡易分光器を自作し、様々な光源を観測しました。1年生は波動についてはまだ学習していなのですが、説明は10分程度で済ませて、分光計の製作に時間をかけました。

持参して配布した型紙に合わせて工作用紙を切って形を作り、回折格子シート500 line/mmを貼り付けてもらいました。1時間目で約20人が、2時間目まで全員が完成させることに成功しました。これと同じ授業は、2022年7月に行っているので、原理や工作の過程などはそちらをご覧ください。

さっそく自作した分光器で、各種の照明(白熱電球、Hg入り蛍光灯、LED蛍光灯)、スペクトルランプ(Ne、 Ar)を観測しました。連続スペクトルと線スペクトルについて説明し、元素は固有の波長の線スペクトルを持つことを説明しました。

自作の装置で綺麗なスペクトルが観測できて、生徒達も楽しんでいて、モチベーションが上がったと感じました。残念ながら雨が降っていて天気が悪く、太陽のフラウンホーファー線は観測できませんでした。晴れた日に観測するように言い置きました。

フラウンホーファー線とは、太陽光の可視光スペクトルの中に暗線として観測されるもので、太いものと細いものがあり、それぞれ記号が付けられています。下の図はWikipediaからお借りしています。

それぞれの線は、太陽の上層に存在する各種の元素や地球の大気中の酸素などによって吸収されたスペクトルです。たとえば上の図のBは酸素分子、D(2本)はナトリウム原子による吸収です。
このサイトも参考になります。

第15回八王子市中学校科学コンクール発表会に参加

12月2日に八王子教育センターで開催された、第15回八王子市中学校科学コンクール発表会、表彰式に、伊藤真人、大井みさほ、奥田治之、西原 寛、佐々田博之、町田武生、和田 勝会員が出席しました。このコンクールは主催:八王子市教育委員会、八王子市立中学校PTA連合会、後援:八王子市立中学校長会、協賛:オリンパス株式会社、NPO法人SSISS(科学技術振興のための教育改革支援計画)で実施されたものです。今年度は久しぶりにポスター発表が復活し、口頭での発表と併せて行われました。参加者も人数の制限はあったようですが、父兄や教員などに拡大して開催されました。会場はセンター3階の大会議室です。

36校の八王子市立中学校から96の自由研究作品が提出され、その中から先生たちによって22作品が入賞となり、さらに、最優秀賞1件、優秀賞1件、奨励賞5件、来年度のためのポスターイラスト賞2件が選考されました。

当日は、選ばれた奨励賞5件のポスター発表と、最優秀作品と優秀作品の口頭での発表が行われ、その後で、各作品に対する表彰式が行われました。次の写真は、開会前に撮影した来賓と受賞者の勢揃いのものです。前列左端がSSISS西原寛理事長です。

定刻の1時に八王子市教育委員会教育長安間英潮さんの開会のあいさつがあり、その後、八王子市長石森孝志さんのあいさつ(「科学する心を育む」と強調されていました)があり、その後、オリンパス株式会社の担当役員の田代芳夫さんのあいさつがありました。こちらもオリンパスの内視鏡の開発の歴史、40年以上もこの分野を牽引してきたと述べて、科学する心を強調していました。

1時半からポスターセッションが開始されました。奨励賞を受賞したのは、以下の5件です。
1)消化酵素の働きー胃薬は消化を助けるのか
   いずみの森義務教育学校 三浦遥馬
2)~SDGsについて考える~牛乳から作る「カゼインプラスチック
   第六中  次田優希
3)地上に届かない雨~地球温暖化や二酸化炭素濃度の上昇で雨が蒸   
  発する 石川中 大月さくら、井汲孝介、亀田一樹(天空の三重
  奏)
4)なぜ台風一過が起こる時と起こらないらない時があるのか
  綾南中  高橋恵理奈
5)水中シャボン玉の秘密
  松木中  笹原来実

セッションは、1ラウンド10分ずつ、1,3,5と2、4の二つに分かれてそれぞれ3回繰り返されました。展示されたポスターの前にはテーブルが置かれ、実験に使った器具やデータなどが並べられていました。発表のたびにポスターの前に集まって発表を聞き、発表に対して質疑応答がありました。次の写真は、1,3,5、2、4の順です。

1)は、様々な溶媒(水、コーヒー、牛乳、スポーツドリンク、ジュース、アルコール)に市販の胃薬を溶かして豚肉片を入れ、2-12時間後の豚肉片の変化を観察して、どの溶媒がよいかを比べています。
3)は、気象庁のデータを表計算ソフトで解析して、最近の日本では、雨の降る日は大量に降り、降らない日は全く降らないという差が顕著になっていることを見出し、雨のもととなる上空の水蒸気量が蒸発により減少する条件を気温、湿度、二酸化炭素量などの条件を変えて実験的に調べています。
5)は、水中シャボン玉(石鹸水をストローで石鹸水中に落とすと、落とした水滴が空気の層で包まれて玉になる)をうまく作るための条件をいろいろと調べています。洗剤の濃度や、水滴の大きさを変えるためにストローの径を変えたりして、最適な解を求めています。
2)は、環境にやさしいプラスチックとして、牛乳のカゼインからプラスチックを作成しています。牛乳の種類を変えて、出来上がったプラスチックを比較し、実際に土壌中に埋めて分解され方を見ています。
4)は、台風一過、すなわち台風が通り過ぎた翌日にきれいに晴れ上がる現象が、起きる場合と起きない場合があることに気が付き、どんな条件でそうなるかを、直近の10年間の気象庁と国立情報研究所のデータから解析しています。その結果、台風の中心気圧の高さや風速とはあまり関係なく、八王子が台風の進路の東側になるときに台風一過になる確率が高いことがわかりました。また、偏西風の向きが日本列島に沿っているときも起こりやすいという結果でした。

普通のポスターセッションと異なり、ポスターの前にテーブルを置いて、写真にあるように実験に使った器具や資料を並べて、各演者は説明をしていました。聴衆はテーブルの前に置かれた椅子に座り、さらにその後ろに立ち見で集まり、熱心に聞き、終わるといろいろと質問をしていました。

ポスターセッションが終わった後、関係者は別室に集まって、各賞の受賞者を誰にするか話し合いました。SSISSは1)の「消化酵素のはたらき」に送ることを決めました。それ以外は、PTA連合が2)、教育長が3)、校長会がが4)、オリンパスが5)でした。

この後、再び会議室に戻り、最優秀賞と優秀賞に選ばれた以下の2題の、スライドを使った15分の口頭の発表がありました。
優秀賞 死骸はどこへ?ー土に生きる分解者たちー
   椚田中  古市明日香
最優秀賞 みなみ野のセミ調査!
   みなみ野中  山本響子

古市さんは、大好きなセミの抜け殻が土に落ち、最後にはなくなってしまうことや、森の落ち葉が森中にあふれたりしないのはどうしてなのだろうかと疑問を持ち、調べたということでした。地面の表層にはミミズやダンゴムシなど、深いところにはオオセンチコガネがいますが、いろいろ調べてもっと大きな働きをしている「微生物」に行きつきました。実際に分解するかどうかを実験で確かめ、微生物が大きな役割を果たしていることを理解し、さらに生物のつながり「生態系」にまで考察が及びました。

山本さんは、中学1年の夏休みに、自分の住むみなみ野にはどのようなセミが生息しているかを知るために、セミの抜け殻を集めたのがきっかけで、2年生、3年生とセミの調査を続けてきたそうです。今回の発表がその集大成なのですね。

セミに抜け殻からその種を同定し、みなみ野に生息するセミの種類と数を推定し、気候との関連を調べたところ、高温・乾燥に強いセミが増加し、湿った環境を好むセミが減少していることが分かったということでした。

それぞれの講演に対して、活発な質疑応答が行われました。

その後、表彰式が行われました。教育委員会の西山豪一さんから、最優秀賞の山本さんへは賞状とトロフィー、優秀賞の古市さんへは賞状と盾が贈られました。

審査員奨励賞5件のそれぞれに、教育長、オリンパス、SSISS、校長会、PTA連合会からそれぞれ賞状が贈られました。

下のは、特にSSISS賞を西山理事長が授与しているところの写真です。

今回表彰された9人の方々すべてに、副賞としてSSISSから東京化学同人出版の「教養の化学-生命・環境・エネルギー」と誠文堂新光社出版の「天文年鑑2024」が贈られました、太っ腹!どちらも、SSISSの会員が執筆を担当している本です。前者は西原寛理事長、小林憲正、黒田智明、伊藤眞人さん、後者は萩野正興さん。

全体の講評は西原寛理事長が行いました。

閉会の言葉があり、無事にコンクールの全行事は終了しました。全受賞者の記念写真です。みんな、誇らしげですね。

最後に、当日参加したSSISSの「七人の侍」の記念写真を載せておきます。

余計な感想ですが、発表者以外に八王子中学校の生徒さんの参加がなかったのが、残念に感じました。

東村山第三中学校での活動(4)

10月24日に進藤哲央会員が、東村山第三中学校で自然探求部の活動を支援して、「科学の目で世界をみたら」というタイトルで講演を行いました。部員20名が参加し、教員も3名、加わりました。講演の内容は、簡単な自己紹介の後、「科学とは」「素粒子と宇宙」「霧箱を楽しもう」の3部構成で、パワーポイントのスライドを駆使して進めました。町田武生会員もオブザーバーで参加しました(写真は町田会員撮影)。

冒頭の自己紹介では、中学・通学高校時代のクラブ活動の様子や、これまでの地球上での自分自身の移動の様子を紹介しました。

さて本題です。第1部の「科学とは」では、ふだんあまり授業などでは触れないであろう、「科学とはどのような営みか」という部分に焦点をあて、科学哲学の初歩的な内容を、自分のふだんの研究活動における経験に基づいて、やや概念的な話をしました。

自然科学とは、1)自然を理解しようとする試みであり、2)世界を観察(観測)することから始まること、その結果、3)自然界の現象には、秩序・法則があるように見えること、そこでその法則を明らかにしようとする学問です。科学者は、そのために、自然を観察(主に種々の現象を数値化するために測定)します。自然現象は非常に複雑なために、測定値には必ず誤差が伴います。それを踏まえたうえで、観察あるいは測定結果を説明するためのモデル(仮説)を作成します。その際、より少ない仮定で説明できる仮説が良い仮説であるという、オッカムのカミソリが重要になります。
少し難しい話ですね。筆者は「オッカムのカミソリ」の話を、大学1年の哲学の講義で初めて聞きました。
実験科学では、仮設の検証のために、実験を行い、仮説が成り立つかどうかを検証します。

こうした抽象的な内容を具体的にイメージしてもらうため、天動説と地動説の話などの歴史上の物語も交えつつ、約30分程度の話にまとめました。
「視差」を実感するために、人差し指を顔の前に突き出してみてください。左右の目を交互につぶって指先を見つめると、指先の延長線上の遠方にある物体が、左眼をつぶった時と右眼をつぶった時で位置が異なって見えます。これを両眼視差といいます。さて。天動説では、星は天球に張り付いてるので、地球から見てその位置関係が変わることはありません。しかし実際には、春分の日と秋分の日で、星の位置関係が変わります。これは地球が太陽の周りを公転しているからです。これを年周視差といいます。

地動説を復活させたのは、有名なコペルニクスですが、当時の観測精度では、遠くにある恒星の年周視差を測定することはできませんでした。地動説は主として、太陽系の惑星(水、金、地、火、木、土、天)の動きや見え方をもとに考えられたのです(下のコペルニクスの描いた太陽を中心とした図はここからお借りしています)。特に、水星と金星の見え方と火星、木星などの見え方の違いを、天動説では説明できませんでした。また、オッカムのかみそりで述べたように、天動説はいろいろな余分な仮説や計算が必要であったのに対して、地動説はシンプルでした。

ただし、コペルニクスの地動説の惑星は円軌道を想定していたので、予測精度は天動説に比べるとが落ちていました。

ティコ・ブラーエの精密で長期間にわたる測定結果を解析し、惑星が太陽の周りを楕円軌道で回っているなどの法則を発見したのが、ケプラーです。このモデルによって天動説よりも正確な予測ができるようになりました。また、ケプラーの三法則は、万有引力の発見に近づくものでした。ちなみに、微小な年周視差が観測されたのは、1838年でした。

 第2部の「素粒子と宇宙」は自分の専門分野である素粒子や、宇宙初期の話をしました。第1部とのつながりも多少は意識し、誰も直接見たることのできない極ミクロの世界の様子や、時間を巻き戻すことができない中で、宇宙の初期に何が起こったのかなどを、科学の観点からどのようにして確信を持って調べていくかについても、適宜触れつつ、最新の素粒子や宇宙に関する研究について解説を約30分で行いました。
現在では、水分子とそれを構成する原子の構造について、次の図のようであると知っていますが、大きさを見るとわかるように、眼で見ることはできなし、顕微鏡でも観察することはできません。

それでは、どのようにして原子の存在を知ったのでしょうか。化学反応における法則(ラボアジエの質量保存の法則、プルーストによる定比例の法則、ドルトンによる倍数比例の法則)によって、化学反応は基本粒子の組み換えで説明できることがわかり、原子説が提唱されました。実際に原子そのもの見たわけではないのですね。
その後、J.J.トムソンの陰極管を使った陰極線の実験により、電子の存在と、それが電荷をもつことが明らかになります(下の図はWikipediaのトムソンの記事からお借りしています)。青い線で表した電子線は黄色で表した電場によって下へぶれています。プラス・マイナスを逆転すると、軌跡は上のほうにぶれます。

こうして、原子を構成する電子の実在が確かめられ、原子模型が提唱されていきます。トムソンは正の電荷を帯びた海の中を電子が漂っているものと想定しましたが(ブドウパンモデル)、後にラザフォードは正電荷は中心の核の中に集中しているという現在のものに近いモデルを提唱します。
分子のほうはどうでしょうか。1828年に植物学者のブラウンが、水に浮かべた花粉の殻が破れて飛び出した微粒子が、不規則な運動を続けることを観測しました。次の図はシュミレーションで1000ステップを表示したものです。(0、0)が始点です(Wikipediaからお借りしています)。

しばらくはこの運動がどうして起こるのか分かりませんでしたが、1905年にアインシュタインが媒質の水分子の不規則な衝突が原因であるという仮説を立て、数式を提出、1908年にはペランが実験的にこれが正しいことを確認しました。こうして水分子が実際に存在することが認められたのです。ちなみにペランは、この式からアボガドロ数を計算しています。
こうして、我々の身の回りの物質はすべて、原子とそれから構成される分子からできていることが明らかになりました。原子の中心には核があるのですが、核には正電荷を持つ陽子と質量の関係から電荷をもたずに陽子と同じ質量をもつ中性子からなっていると考えられました。正電荷を持つ陽子が反発せずに集まっているためには、何か結び付けているものが必要だと考え、湯川秀樹は中間子という理論を提出しましたが、後になって、陽子や中性子も基本的な粒子ではなくさらに素粒子からなることが明らかになり、素粒子標準理論へとまとめられていきます。2012年にはヒッグス粒子が発見され、標準模型は確立しました。次の図は、その素粒子の一覧表です。この図と次の図は、とても魅力的な次のサイトからお借りしてます。
物質粒子が陽子や中性子を構成する素粒子で、ゲージ粒子は、それらを素粒子どうしをくっつけたり離したりするための素粒子、ヒッグス粒子はちょっと説明のむずかしい特別な素粒子です。

上に掲げた水分子の図を、素粒子の世界まで広げると次のようになります。


このあたりの素粒子物理学については九州大学附属図書館のこのサイトがとても参考になります。イントロから順に見てみてください。

素粒子から原子が構成され、それが分子を生むというのは分かりました。それでは、物質の始まりはどんなものだったのでしょうか。ここで宇宙の始まりが問題になります。20世紀初めまでは、宇宙は不変で定常的と考えられていましたが、ハッブルによって遠方の銀河が遠ざかっているという観測により、宇宙は膨張していると考えられるようになり、その必然として時間をさかのぼれば、宇宙の初めは超高温・超高圧の火の玉で、これが大爆発を起こして始まったと考えられるようになりました(ビッグバンあ説)。この時は素粒子はバラバラで存在していたのが、冷えていく過程で水素原子ができ(下の図の赤から青に変わる3000Kのころ)、さらに核反応を起こして重い元素ができていったのです。ウーン、だいぶ難しくなってきました。素粒子にも宇宙のも、まだまだ解明しなければならない謎がたくさんあるようです。

 第3部「霧箱を楽しもう」では、持参したペルチェ素子式の霧箱を用いて、放射線の痕跡を見てもらいました。

最初は線源を入れずに観測してもらい、自然放射線の痕跡がそこそこの頻度で見られることを確認してもらった上で、天然鉱石の線源を投入し、やや派手な放射線の痕跡を観察してもらいました。

当初は1時間の予定でしたが、内容を盛り込みすぎたこともあり、1時間半弱ほどのやや長丁場となってしまいました。

八王子市立中学校PTA連合会との打ち合わせ

9月2日の午後1時30分から、八王子市立PTA連合会の役員の方々と、今年度の八王子市立中学校科学コンクールへの協力について打ち合わせを、ZoomによるWeb会議で行いました。PTA連合会からは、廣田会長をはじめとして、荒木副ブロック長(科学コンクール統括)、座間ブロック長、岩崎(科学コンクール担当)の4名の方々が、SSISSからは西原寛理事長をはじめとして伊藤真人、佐々田博之、町田武生、和田勝の各理事、大井みさほ監事、有山正孝参与の7名が参加しました。

今年度の作品募集のポスターは次のようなものです。これは初期のものなので、締め切り日などが記入されていませんが、完成したものをすでに各中学校に配布して、すでに応募があった多数の作品から、優秀な作品を選考する作業が行われているそうです。

会議では、岩崎さんの巧みな進行によって活発な意見交換がありました。今年度は、ポスター発表もあるようで、12月2日(土)に開催される優秀作品の発表会と表彰式には、西原寛理事長はじめとして合計6名の会員が参加することになりました。表彰式では表彰状と副賞を理事長が授与します。副賞としては、小林憲正理事が昨年末に刊行したををすべての受賞者に、この4月に東京化学同人から刊行された、西原寛・中田宗隆編の「教養の化学ー生命・環境・エネルギー」をすべての受賞者に差し上げるつもりであることを伝えました。

会議の後の雑談も楽しく進行しました。その中で、生徒たちが夏休み研究などを始めるときに、テーマの選び方や研究の進め方など、戸惑うことが多いので、始めるときにいろいろな相談ができるとありがたいという話が出て、Webを通じてそのような相談・指導をSSISSで実現できないか、考えてみることにしました。

江戸川区子ども未来館での活動

和田勝会員が、8月8日の午後に、江戸川区子ども未来館で毎年実施している「子どもアカデミー夏休みプログラム」の中の一コマとして、「生物は細胞でできている」というタイトルで実験授業を行いました。参加したのは小学校3年から6年の児童16名でした。子ども未来館の前川啓二さんと江戸川区役所にインターンシップで来ていた学生さん1名が手伝ってくれました(写真はすべて前川さん提供です)。

今年度は、先方の都合で受講者が小学3年生から6年生だったため、最初に顕微鏡の操作法の説明をかなり丁寧に行いました。持参したプレパラートを使って、ピント合わせ、倍率を上げるなどの操作に慣れてもらいました。 

ついで単細胞生物のゾウリムシの観察を行いました。最初は、シャーレに入れて黒地の背景において、肉眼で、次いで虫眼鏡見てもらいました。全長およそ0.2mmのゾウリムシが動く様子が見えます。

ゾウリムシは、どのような動きをしているかを観察するよう促しました。虫メガネではよく見えないので、顕微鏡の出番です。ホールスライドグラスにメチルセルローズ液を取り、そこにゾウリムシを含む水を一滴たらし、顕微鏡で観察してもらいました。くるくる回りながら進んでいくのがわかります。繊毛によって泳いでいることを説明しました。

ゾウリムシは単細胞生物であることを強調し、ハンドアウトの1ページ目に写真が載っているポニー(動物)やモンステラ(植物)は、多細胞生物であることを説明し、多細胞生物の植物の例として、タマネギ鱗茎葉の表皮細胞層の観察に移りました。カッターナイフとピンセットを使って、表皮細胞層を剥離して、2枚スライドに取り、一方を酢酸カーミンで染色しました。無染色のほうをまず観察し、次いで染色したほうを観察してもらいました。無染色のほうは、細長い細胞が敷石のように並んでいるだけですが、染色により1つ1つの細胞に1個の核があることがわかりました。

動物細胞の例として。自分の頬の内側の表皮細胞を綿棒でこすり取り、染色して観察しました。ほとんどの人がうまく観察することができました。

ここで植物細胞と動物細胞の違いを説明し、細胞分裂により数を増やし成長することを強調しました。書き忘れましたが、最初のほうで、ボリュームが大きくなる方法として、風船をふくらませる方法とロゴブロックを組み立てていく方法があることを演示し、生物は谷となるブロックの数を増やしていく方法をとっていることを説明しました。その数を増やす方法が、細胞分裂なのですよ。途中休みを入れずに2時間を少し越える実験授業でしたが、3年生を含めて児童はみな熱心に取り組んでいて、反応も良かったです。

子ども未来館は、最後に受講者に「子どもアカデミー発見カード」というのを配布して、記入してもらっています。そこには、「よくわかりましたか?」「わくわくしましたか?」という項目に、とっても!、まあまあ、ぜんぜん、に丸を付けるようになっています。回収されたカード13枚の内訳は、以下の通りでした。

よくわかりましたか?わくわくしましたか?
 とっても    8  とっても     12
 まあまあ    5 まあまあ     1
 ぜんぜん    0 ぜんぜん     0

立教池袋中学校・高等学校での活動

小林憲正、町田武生、和田勝会員が、7月22日午後に教池袋中学校・高等学校で開かれた科学部の2023年度研究発表会に参加して、生徒の発表を聞き、コメント等を述べました。久しぶりの対面での研究発表会でした。発表する生徒のほか、その父兄10人と、立教大学理学部化学科の和田 亨教授が参加されていました。

演題は中学生から4題、高校生から5題あり、途中1回の休憩をはさんでほぼ予定通りに進行し、午後3時15分に閉会式が行われました。例年に比べると演題数が少ない印象でした。いずれの演題もパワーポイントを使って発表され、7分の発表時間の後に3分の質疑応答が行われました。プログラムは次の通りです。

発表された9件は全て化学分野の内容でしが、それぞれ、それなりのテーマに取り組んでいることがうかがえました。質疑応答の時間には、小林会員、町田会員、それと立教大学の和田教授がコメントを述べました。

何のために何をするのか、その結果はどんな意味があるのかを、もう少し考えて実験すれば、さらに良い研究成果が出そうなものもあり、期待が持てると思われました。この発表会は中間発表であり、これからさらに研究を進めるということでしたが、今回の発表に対して出されたコメント等を参考にして、されにブラッシュアップされることを期待したいと思います。実験の早い段階から、SSISSなり然るべき専門家の助言を得るようにすれば、格段にレベルが上がりそうにも見えました。口頭発表以外に3件の要旨が加えられていて、活発な部活動の様子が窺われました。

東村山第三中学校での活動(3)

7月18日に町田武生会員が東村山第三中学校で自然探求部の活動を支援して実験授業を行いました。1年生から3年生までの部員35名が参加し、教員も5名、参加しました。

自然探究部での実験研究の進め方を考える一環として、老化研究とはどんなものかを知りたいとの依頼があり、ヒトの体が細胞から成り立っていること、それら細胞に分裂能力の限界、つまり寿命があることがこの分野の研究の基本であることを述べました。

培養下でガン細胞の増殖に限界はないが、正常の細胞には分裂の回数に限りがあることを見出した研究を紹介し、体を構成するさまざまな細胞を、小腸、大腸、肝臓、すい臓、腎臓、甲状腺、脳下垂体、精巣、卵巣、大脳などの組織標本を持参して、顕微鏡で観察してもらいました。下の写真はラット小腸の光学顕微鏡写真(ヘマトキシリン・エオシン染色)で、ここからお借りしています。

からだを構成する細胞の分裂回数には、染色体の末端にあるテロメアという部分が、カウンター時計のような働きをして回数を規定していて、細胞の寿命を決めているという考えがあります。一方で、細胞の中には、筋肉や神経細胞、脂肪細胞などのように、成長の段階で分裂増殖を終えてしまい、その後は個体の死までずっと活動するものがあり、これらの細胞では細胞の活動によって必然的に起こる酸化などの物理化学的な反応そのものによって寿命が規定されているとの考えを紹介しました。 下の図はここからお借りしています。

老化研究をはじめとして、さまざまな実験研究では、筋道を立てて研究に取り組むとともに、ものの見方や視点を変えることにより新展開が開けること、偶然の気づきや誤操作により新発見が得られることなどの事例を紹介し、とにかく何かやってみることから始めようと促しました。

部活動は授業の指導案などに規定されない自由な実験研究活動なので、気楽に楽しく身近な疑問や気付きを解決することから始めてみようと勧めました。当該校は教諭・校長とも科学部活動に非常に意欲的なので、われわれとしてはごく簡単な実験観察を生徒と一緒に行うのが良い手掛かりになりそうに思いました。