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江戸川区子ども未来館での活動

和田勝会員が、8月8日の午後に、江戸川区子ども未来館で毎年実施している「子どもアカデミー夏休みプログラム」の中の一コマとして、「生物は細胞でできている」というタイトルで実験授業を行いました。参加したのは小学校3年から6年の児童16名でした。子ども未来館の前川啓二さんと江戸川区役所にインターンシップで来ていた学生さん1名が手伝ってくれました(写真はすべて前川さん提供です)。

今年度は、先方の都合で受講者が小学3年生から6年生だったため、最初に顕微鏡の操作法の説明をかなり丁寧に行いました。持参したプレパラートを使って、ピント合わせ、倍率を上げるなどの操作に慣れてもらいました。 

ついで単細胞生物のゾウリムシの観察を行いました。最初は、シャーレに入れて黒地の背景において、肉眼で、次いで虫眼鏡見てもらいました。全長およそ0.2mmのゾウリムシが動く様子が見えます。

ゾウリムシは、どのような動きをしているかを観察するよう促しました。虫メガネではよく見えないので、顕微鏡の出番です。ホールスライドグラスにメチルセルローズ液を取り、そこにゾウリムシを含む水を一滴たらし、顕微鏡で観察してもらいました。くるくる回りながら進んでいくのがわかります。繊毛によって泳いでいることを説明しました。

ゾウリムシは単細胞生物であることを強調し、ハンドアウトの1ページ目に写真が載っているポニー(動物)やモンステラ(植物)は、多細胞生物であることを説明し、多細胞生物の植物の例として、タマネギ鱗茎葉の表皮細胞層の観察に移りました。カッターナイフとピンセットを使って、表皮細胞層を剥離して、2枚スライドに取り、一方を酢酸カーミンで染色しました。無染色のほうをまず観察し、次いで染色したほうを観察してもらいました。無染色のほうは、細長い細胞が敷石のように並んでいるだけですが、染色により1つ1つの細胞に1個の核があることがわかりました。

動物細胞の例として。自分の頬の内側の表皮細胞を綿棒でこすり取り、染色して観察しました。ほとんどの人がうまく観察することができました。

ここで植物細胞と動物細胞の違いを説明し、細胞分裂により数を増やし成長することを強調しました。書き忘れましたが、最初のほうで、ボリュームが大きくなる方法として、風船をふくらませる方法とロゴブロックを組み立てていく方法があることを演示し、生物は谷となるブロックの数を増やしていく方法をとっていることを説明しました。その数を増やす方法が、細胞分裂なのですよ。途中休みを入れずに2時間を少し越える実験授業でしたが、3年生を含めて児童はみな熱心に取り組んでいて、反応も良かったです。

子ども未来館は、最後に受講者に「子どもアカデミー発見カード」というのを配布して、記入してもらっています。そこには、「よくわかりましたか?」「わくわくしましたか?」という項目に、とっても!、まあまあ、ぜんぜん、に丸を付けるようになっています。回収されたカード13枚の内訳は、以下の通りでした。

よくわかりましたか?わくわくしましたか?
 とっても    8  とっても     12
 まあまあ    5 まあまあ     1
 ぜんぜん    0 ぜんぜん     0

立教池袋中学校・高等学校での活動

小林憲正、町田武生、和田勝会員が、7月22日午後に教池袋中学校・高等学校で開かれた科学部の2023年度研究発表会に参加して、生徒の発表を聞き、コメント等を述べました。久しぶりの対面での研究発表会でした。発表する生徒のほか、その父兄10人と、立教大学理学部化学科の和田 亨教授が参加されていました。

演題は中学生から4題、高校生から5題あり、途中1回の休憩をはさんでほぼ予定通りに進行し、午後3時15分に閉会式が行われました。例年に比べると演題数が少ない印象でした。いずれの演題もパワーポイントを使って発表され、7分の発表時間の後に3分の質疑応答が行われました。プログラムは次の通りです。

発表された9件は全て化学分野の内容でしが、それぞれ、それなりのテーマに取り組んでいることがうかがえました。質疑応答の時間には、小林会員、町田会員、それと立教大学の和田教授がコメントを述べました。

何のために何をするのか、その結果はどんな意味があるのかを、もう少し考えて実験すれば、さらに良い研究成果が出そうなものもあり、期待が持てると思われました。この発表会は中間発表であり、これからさらに研究を進めるということでしたが、今回の発表に対して出されたコメント等を参考にして、されにブラッシュアップされることを期待したいと思います。実験の早い段階から、SSISSなり然るべき専門家の助言を得るようにすれば、格段にレベルが上がりそうにも見えました。口頭発表以外に3件の要旨が加えられていて、活発な部活動の様子が窺われました。

東村山第三中学校での活動(3)

7月18日に町田武生会員が東村山第三中学校で自然探求部の活動を支援して実験授業を行いました。1年生から3年生までの部員35名が参加し、教員も5名、参加しました。

自然探究部での実験研究の進め方を考える一環として、老化研究とはどんなものかを知りたいとの依頼があり、ヒトの体が細胞から成り立っていること、それら細胞に分裂能力の限界、つまり寿命があることがこの分野の研究の基本であることを述べました。

培養下でガン細胞の増殖に限界はないが、正常の細胞には分裂の回数に限りがあることを見出した研究を紹介し、体を構成するさまざまな細胞を、小腸、大腸、肝臓、すい臓、腎臓、甲状腺、脳下垂体、精巣、卵巣、大脳などの組織標本を持参して、顕微鏡で観察してもらいました。下の写真はラット小腸の光学顕微鏡写真(ヘマトキシリン・エオシン染色)で、ここからお借りしています。

からだを構成する細胞の分裂回数には、染色体の末端にあるテロメアという部分が、カウンター時計のような働きをして回数を規定していて、細胞の寿命を決めているという考えがあります。一方で、細胞の中には、筋肉や神経細胞、脂肪細胞などのように、成長の段階で分裂増殖を終えてしまい、その後は個体の死までずっと活動するものがあり、これらの細胞では細胞の活動によって必然的に起こる酸化などの物理化学的な反応そのものによって寿命が規定されているとの考えを紹介しました。 下の図はここからお借りしています。

老化研究をはじめとして、さまざまな実験研究では、筋道を立てて研究に取り組むとともに、ものの見方や視点を変えることにより新展開が開けること、偶然の気づきや誤操作により新発見が得られることなどの事例を紹介し、とにかく何かやってみることから始めようと促しました。

部活動は授業の指導案などに規定されない自由な実験研究活動なので、気楽に楽しく身近な疑問や気付きを解決することから始めてみようと勧めました。当該校は教諭・校長とも科学部活動に非常に意欲的なので、われわれとしてはごく簡単な実験観察を生徒と一緒に行うのが良い手掛かりになりそうに思いました。

千葉市立あやめ台小学校での活動

和田勝会員が、地元の千葉市立あやめ台小学校で、夏休み前の2日間7月12日と13日を使って特別授業の枠をもうけてもらい、5年生2クラスと6年生1クラスの児童に対して、「生きものは細胞からできている」というタイトルで実験授業を行いました。2時限続き、途中休みなしの90分で行いました。ともかく、おもしろいな、理科って楽しいなと、感じてもらえるような授業を目指しました。

虫メガネ、実体顕微鏡、光学顕微鏡を用意してもらい、ゾウリムシを、肉眼、虫メガネ、実体顕微鏡で観察し、最後に顕微鏡で観察しました。肉眼では点にしか見えないゾウリムシが、虫メガネでは細長いものが動いているとわかり、実態顕微鏡では、もう少し大きく見えて活発に動いているのがわかります。

顕微鏡の操作法の説明を行い、持参したプレパラートを使って操作に慣れてもらい、ホールスライドガラスにメチルセルローズ溶液をたらし、そこへゾウリムシの入った水を一滴たらして観察しました。ゾウリムシがどのように動くか観察するよう促し、回転して動いていることを確認してもらいました。どうして回転して前に進むかを考えてもらい、最後に繊毛で泳ぐことを説明しました。繊毛というとなじみがないかもしれないが、ヒトにも気管上皮に繊毛があることを述べ、この繊毛の働きで、痰を出して吸い込んだ異物を輩出しいるのだと説明しました。

その後、多細胞生物の植物の例として、タマネギ鱗茎葉の表皮細胞をそのままと酢酸カーミンで染色したものを観察してもらいました。先の細いピンセットがなく、太いものを使ったので、表皮だけを切り出すのが難しく、厚い切片がが多かったのですが、周辺の薄いところを探してもらい観察してもらいました。染色により1つ1つの細胞に核がきれいに見えました。

動物細胞の例として。自分の頬の内側の表皮細胞を綿棒でこすり取り、染色して観察しましたが、すべての人がうまく観察することはできませんでした。綿棒によるこすり取りが十分でなかったためだと思われます。

最後に、植物細胞と動物細胞の違いを説明し、細胞は細胞分裂により数を増やし、成長することを強調しました。

児童はみな熱心で、反応も良かったと思います。後で感想文をいただきましたが、こんな文章が図とともに書かれていました。3つだけを載せておきます。(いずれも原文のまま)

「和田先生に顕微鏡の使い方を教わって、ゾウリムシとたまねぎのうすい皮、自分の細胞を見て、理科の楽しさをしりました。細胞がはっきりと良く見えて『こんな細胞があるんだぁ』と思いました。液であかくそめると皮はバッタのたまごみたいな形をしていて一つ一つに核がありました。和田先生に理科の実験をおそわったのでこれから楽しい理科にしていきます。」(5年生)

「和田先生きのうは分かりやすい理科の授業をしてくれてありがとうございました。私は動物や虫すべての生き物が触れなくて大丈夫かなととても心配でしたけれどじゅ業が始まり和田先生が優しく丁ねいに説明してくれて『あぁこうやってやるんだ。私でもできるかも。』という気持ちになれて不安な気持ちがどこかに行ってしまいました。私は理科はあまり好きではなかったけれど和田先生のおかげで理科がもっと好きになれました。」(5年生)

「理科授業を行っていただきありがとうございました。ふだんはできないとても貴重な体験なのでとても楽しかったです。ゾウリムシを見たりたまねぎの細胞を見たりすることができてとても興味深かったです。残念ながら自分の細胞を見ることはできませんでしたが、また機会があれば挑戦したいと思います。前から理科は好きでしたが、この授業で、もっと好きになれました。ありがとうございました。」(6年生)

東村山第三中学校での活動(2)

3月23日の午後2時から3時45分に、佐々田博之会員が東村山第三中学校自然探求部の活動で1、2年生24名に対して、事前にもらった質問「レーザー光と普通の光の違い」に関して講義と実験授業を行いました。

「レーザー光と普通の光の違い」に答えるために、Power Point 30枚を使い、1時間かけて、波の特性、光が回折しないように見えるのはなぜか、レーザー光は普通の光より完璧な波に近いため細いビームとなることを説明しました。


レーザ(Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)は、普通の白色光と違い、指向性(拡散せず広がらない)、単色性(波長が一定でそろっている)、可干渉性(位相がそろっている)といった特徴を持ちます(下の図はここからお借りしています)。

レーザー光は、単色の細いビームとして伝わり、壁などに当たるとギラギラ光るのでとても見やすく、ポインターとして最適です。また、CD-ROMへの書き込み、読み出しにも使われています。

波というのは、水や空気などの媒質の変化が、時々刻々、隣接する媒質に伝わっていく現象です。水面の高さの変化は水面派であり、空気の圧力の変化は音波、電磁場の変化は電磁波になります。電波、赤外線、可視光線、紫外線、X戦、ガンマ線は、いずれも波長の異なる電磁波です。

波には回折という現象が生じます。波が隔壁に空いた小さな穴を通ると、穴を通った波は隔壁の背後に回り込む現象です。下の写真は隔壁に空いた2つの隙間から水面波が隙間を通った後広がる様子を示しています。

光も波ですから、回折が起こるはずです。光は水面波に比べると波長がずっと短いので、上の例のように簡単には観察できません(下の図はここからお借りしています)。

手のひらを光源に向けて、指と指の間を狭めていってみてください。あるところで指と指の間の隙間に黒い線が表れると思います。これが回折によって生じた現象です。短い波長の波に回折を生じさせるためには、細かいスリットを施した回折格子を使います(下のものは一例で、10mmあたり2000本のスリットが刻まれています)。

このような話をした後に、1時間弱でLED(赤、緑、青)とレーザーポインター(赤、緑、青)を光源にして、紙での散乱(レーザーではスペックルが見える)、ハンカチでの散乱(レーザーでは干渉縞が見える)、回折格子シートでの回折(レーザー光はLED光より高次の回折まで見える)を観察しました。また、波長(赤、緑、青)による回折角の違いを調べました。与えられた質問が高度なので、全てを完全に理解することは難しかったかもしれませんが、レーザー光と普通の光の違いは体験できたようです。

千葉県SSH発表会

3月18日に、町田武生会員と和田勝会員が、千葉工業大学津田沼キャンパスでで行われた千葉県高等学校課題研究発表会に参加して、助言活動を行いました。

これは、千葉サイエンススクールネットとコンソーシアム千葉主催による千葉県SSH指定校と理数科を設置している高等学校12校の生徒による課題研究発表会で、指導・助言者として上記2名が参加しました。我々以外に、県内外の大学から多数の指導助言者が参加していました。入り口で渡された「令和4年度千葉県高等学校課題研究会ポスター集」は242ページもある立派な冊子でした。

午前中に口頭発で、物理10、化学13,生物13,地学6,数学8件の発表があり、指定された生物会場2での割り振られた生物4課題の発表に対して指導・助言を行いました。

午後はポスター発表があり、物理65,化学55、生物64、地学19、数学29、合計232件の発表がありました。生物64課題は前半と後半に分かれてポスター前での説明があり、我々は生物の2会場を回って、説明係の説明を聞き、コメントをしました。

生物64課題中、それぞれ指定された7課題についてはオンラインで講評を送信し、また、主だった発表にもコメントを送り、既にメールでいくつかのやりとりが行われ、支援の実が結んでいるようでした。 生物の発表しか見ていないのですが、いずれの発表も熱心に取り組んでいる様子がうかがえました。ただポスターに載せられたグラフの表示方法など、改善が必要だと思われるものもありました。

南相馬サイエンスラボ主催地域教育を考える勉強会での活動

2月13日に、町田武生会員がNPO法人南相馬サイエンスラボ(齋藤実理事長)主催、みどりアートパーク(横浜市緑区)共催の、福島県地域支援事業としての「第6回地域教育を考える勉強会」において、ゲスト講師を招いて「幸せをつくる教育」について行われた講演と討論で、全体の取り纏め支援と総括を行いました。

南相馬サイエンスラボでは、齋藤実氏が児童生徒に科学的なものの見方、考え方を身に付けさせるように取り組んでいて、生徒が見つけた疑問や課題を解決して次の展開を図るときに、学校だけでなく地域が支援する仕組みの構築に努力しているので、これに関連した事業の紹介がなされました。

 川崎市教育委員会佐藤映子指導主事は、川崎市の「寺子屋事業」の紹介と成果を紹介、地域の人々の力の大きさを述べました。

 福島県只見町のNPO法人ただみコミュニティクラブの平山真恵美マネージャーは、幼少年を地域で育てる取り組みを紹介しました。

 南相馬市教育委員会牛来学社会教育主事が、地域学校協働活動事業の立ち上げと推進を紹介しました。この事業の中で、養蜂の分野でさまざまな賞を得ているはちみつマイスターの米田望女史の指導で、児童をミツバチに馴染ませ、養蜂の体験を進めている例が示されました。

 バングラデシュのFuture Design Schoolのモラ・M・マスド校長は、南相馬サイエンスラボの取組を参考にして母国にも同様の事業を立ち上げたい意向を述べました。

 最後にピアノと歌の新屋賀子楽団による「いのちと地球」の演奏があり、生命のあり方を問う内容が披露されました。

 児童生徒が自ら生きる姿勢を育むために地域の役割が重要であることを確認する会でした。齋藤実氏は児童生徒に平易にものごとを説明する能力に長け、小学生向けデモ実験や実演が見事で、この日も「血液って何だろう?」の実演がありました。町田会員から、SSISSのさまざまな取組を紹介しましたが、あらためてSSISSも地域教育へのコミットを考える必要があると認識させられました。学校では、教員の負担軽減のために部活動を廃止する方向のため、まずは部活動を地域人材に委ねる方策が有効と考えられると感じました。

松田良一会員:生物学教育にヒトの性を

日本の少子化は、性教育をこれまで真剣にやって来なかった文部行政がもたらした「人災」だ。

私は20年間にわたり、国際生物学オリンピックに関与し、世界各国の高校レベルの生物教育を比較してきた。日本の学校教育ではカエルの受精は教えるが、最も大事なヒトの生殖(性交や受精、着床、妊娠と避妊、胎盤、へその緒、分娩)や、性接触性感染症、感染に伴う不妊については全く教えない。

これらは、高校生物の学習指導要領に入っていない。わずかに保健体育で取り上げているが、その科学的記載は乏しい。一方、アジアを含む諸外国では、性に関する科学教育が充実している。日本では不妊治療の必要性を感じて受診した産婦人科医から、初めてクラミジア感染にともなう卵管采周囲癒着や閉塞(卵管性不妊)について知る。オランダではなんと13、14歳向けの生物教科書で、分かりやすく図解入りで説明している。コンドーム等の避妊具の装着法、さらにクラミジアや淋病など性接触性感染症にかかった場合、どのような症状が現れるかについても13、14歳でも自己診断できるように書かれている(*)。そして感染したら直ちに処方すべき抗生物質があることも教えている。他の多くの国も同様だ。各国とも、教室で教師が写真や図入りの教科書を使って、分かりやすく説明している。日本だけがこれを教えない、偏った「異次元の理科教育」を行っている。この違いは何によるものだろう?

日本では妊娠は成人後に学ぶべき事柄として、10歳代での教育の必要性を否定する文部科学省の「はどめ規定」により、初等中等教育における性教育のタブー化が浸透しているからだ。厚生労働省のデータによると、日本の20歳代女性のクラミジア感染率は5人に1人に上り、クラミジアに感染した女性の卵管狭窄や閉塞も増えている。同様に、現在、淋病感染者もふえつつあり、子宮外妊娠や卵管性不妊の原因となっている。

もちろん少子化の要因として、結婚率の低下や晩婚化といった社会的変化もあるだろう。しかし、まずは直ちに現行のはどめ規定による性教育の制限を撤廃し、他の国々と同様、ヒトの生殖を教育すべき範囲に入れることが、少子化対策の第一歩と考える。性接触性感染症を予防し、あるいは感染を早く認識して治療に向かわせる国際標準の性教育を始めるべきだ。このまま少子化が進行すると、ある計算では22世紀初頭には日本国民は半分以下になり、さらに減少は早まるだろう。文部科学省は、現状のヒトの生殖を教えない教育こそ、「異次元の教育」であることを認識し、これを早急に是正することから始めるべきである。

*「14歳からの生物学」 松田良一、岡本哲治監訳 白水社 (2020年刊)

上記とほぼ同じ内容のものが、日本経済新聞5月5日朝刊の私見・卓見欄に、掲載されています。

【引用されている本についての広報担当理事の補足】
ちなみに、この本の構成は、「Unit 1:呼吸、Unit 2:栄養と消化、Unit 3:循環系、Unit 4:生殖、あとがき・さくいん」と続き、それぞれのユニットは、「基礎」、「発展」、「まとめとテスト」、「応用」からなっています。

生殖のユニットを見てみると、「基礎」として
1 身体の変化
2 男性生殖器系
3 女性生殖器系
4 生理(月経)
5 性への関心(セクシュアリティ)
6 避妊(バースコントロール)
7 妊娠と出産
8 性感染症

「発展」として
9 その他の避妊の方法
10 その他の性感染症

「応用」として
1 動物の生殖
2 ピルの患者用添付文書

となっています。その他のユニットについては触れませんが、いずれのユニットも、呼気と吸気、食物と栄養素、血液・血液循環のように身の回りのことから始めて、それぞれの器官系に進んでいき、細胞や細胞小器官のレベルには立ち入っていません。13、14歳ですから日本の中学校の2、3年生にあたります。

千葉県立佐倉高校での活動

2月12日午後に、奥田治之会員が千葉県立佐倉高校で「銀河中心に巨大ブラックホールを追う」というタイトルで出前授業を行いました。あいにく日曜日に設定されていたので、受講した生徒は1,2年生の16名でした。先生も3名参加しています。

初めに、基礎知識として天文学で取り扱う慣用的な単位(距離、質量、エネルギー、角度、等級)を説明し、それらの幅の広い数値を表示するためには、指数表示、対数表示が使われることを紹介しました。

続いて、昔から謎めいた天体であった天の川銀河の構造が、電波、X線、赤外線などの観測によって次第に明らかにされてきたことを述べました。特に、宇宙塵の強い吸収によって不可視だった銀河中心の構造が、透過力の良い赤外線によって、星、宇宙塵(ダスト)の分布などの全体像が明らかになるとともに、超精密解像度の赤外線観測によって、中心核に星の公転運動が検出され、太陽質量の400万倍の質量集中が存在することが解かり、巨大ブラックホールの存在が予言されるまでに至ったことを述べました。

「上の図の説明:天の川銀河の模式図。渦巻き構造を持ち、横から見ると、どら焼きのような形をしている。中心には巨大ブラックホールがあると考えられてきた(加藤恒彦氏、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト、国立天文台、アルマ計画提供)Science Portalより転載させていただきました。」

最近になり、地球規模の電波干渉計によって、その真の大きさが確定されて、ブラックホールであることが証明されたことを紹介しました。さらに、2022年にはブラックホールの撮影に成功しています。

「史上初の天の川銀河中心のブラックホールの画像。これは、私たちが住む天の川銀河の中心にある巨大ブラックホール、いて座A*の姿を初めて捉えた画像です。国立天文台のページより

途中、これらの研究過程で利用された天体の回転運動の法則、ドップラー効果などを簡単な小道具で、デモ実験などを交えて説明しました。

授業はほぼ1時間程度で終わり、あとは生徒、先生からの質問を受け、議論をすることに費やしました。

東村山第三中学校での活動

2月9日午後4時から5時半過ぎまで、和田勝会員が東村山市の東村山第三中学校の自然探求部の活動に参加し、「ゾウリムシで遊ぼう、学ぼう」というタイトルで、実験授業を行いました。参加したのは部員のうちの約25名、3年生が1名と後は1,2年生でした。福島恵美教諭と入江翔太副顧問が助っ人として手伝ってくれました。

和田会員は下見と事前の相談のために、2月3日に同校を訪問していて、そのときにワークシートの束を預かりました。福島教諭が、単細胞生物と多細胞物の違い、ゾウリムシの繊毛や摂食などのついて予想と調べた結果を書き込むようにと、事前に部員に配布して回収したものでした。最後の項目として、ゾウリムシや生物全般について、聞いてみたいことという項目があり、書き込みがありました。

さてそんなことがあって当日、早めに赴き、溶液の準備などを行いました。今回は繊毛の動きを止めるために、塩化ニッケルを使いました。

実験の項目としては、単細胞生物であるゾウリムシの運動(遊泳)、摂食(食物の取り込みと食胞形成)、収縮胞による浸透圧調節の観察を選びました。

ゾウリムシをスライドグラスにとり、どのように遊泳しているかを観察してもらい、この動きが起こる理由を考えてもらいました。塩化ニッケル水溶液を加えると繊毛運動が停止することも観察しました。また、ヒトでは繊毛は気管上皮細胞にあることを説明しました。

10㎝程の2本の細いビニールチューブを両端と真ん中の3か所を輪ゴムで束ね、片方をずらすとチューブが曲がることを示し、繊毛の中にはこのようなチューブが9本あって、ずれることにより屈曲することを説明しました。筋肉による収縮との違いも説明しました。

次に、あらかじめ用意しておいた乾燥酵母菌をコンゴーレッドで染色したものを与え、ゾウリムシが食胞として取り込むことを観察してもらいました。下の写真のようになる予定でしたが、体の中が赤くなっているのがわかりましたが、酵母菌の数が少し多すぎたのであまりうまく観察できませんでした。写真は次の論文よりお借りしています。

案細胞生物のゾウリムシでは、食胞として取り込み、そこの消化酵素が融合して分解するのですが、ヒトでは消化管の内部で消化酵素によって分解して、それを小腸上皮細胞が取り込むことを説明しました。

次に収縮胞を観察してもらいました(下の画像は、慶応大学日吉キャンパス特色GPのページよりお借りしています)。単位時間当たりの収縮法の動きを数えてもらい、外部の塩濃度を濃いものにした時の回数と比較してもらいました。収縮法の動きは観察できたものの、回数の変化までは観察できない生徒がほとんどでした。生きものにとって、とても重要な浸透圧調節について説明しました。

最後に単細胞生物は、一つの細胞ですべてをこなすが、多細胞生物では分業していることを説明しました。

生徒たちはみな熱心で、それぞれの課題に取り組んでいました。事前に福島先生がワークシートを配り、生徒が予習をしているのが有効だったのだと思います。

ワークシートには質問事項があって、いくつもの質問が書き込まれていました。後で、質問に対する回答をまとめて送り、配布してもらいました。2,3の質問と回答を載せておきます。

質問:どうしていろいろな形の微生物が居るのか?
回答:微生物に限らず、生物はいろいろな形のものがいますよね。身の回りを見ても、スズメが居たり、イヌやネコがいたりします。生物はそのものが住んでいる環境に合うように進化してきました。その結果、形が変わったのです。微生物もその例外ではありません。

質問:どうして生物には個体差があるのか?
回答:この「どうして」という質問に答えるのはなかなか難しいです。特別な理由があるわけではないからです。「どのようにして」という質問の形に変えると、その仕組みを説明することは可能です。生物の形やはたらきは、その生物の持つ遺伝情報によって決まります。この遺伝情報に個体差があるのです。たとえばヒトの背の高さは複数の遺伝情報によって決まります。この複数の遺伝情報に個体差があるので、その組み合わせである実際の背の高さには、低い人から高い人までのばらつきが生まれるのです。

質問:どうしてゾウリムシはもっと大きい生物に進化せずに、あの小さな体にたどりついたのか?
回答:この「どうして」という質問に答えるのはなかなか難しいです、特別な理由があるわけではないからです。しいて言えば、ゾウリムシは現在生息している環境に適応して子孫を残しているので、体を大きくしたり、形を変えたりするような環境からの圧力(淘汰圧といいます)がかかっていないと思われます。そのために今の形でいつづけるのです。